6号館・初夏の特別展

子どもの晴れ着ちりめん細工
 ●会期  2010年4月24日(土)→2010年6月22日(火)
●会場  日本玩具博物館6号館
▲薬玉・御所人形・貝桶・
おもちゃ絵の晴れ着 昭和初期
                 
▲五つ紋裾文様の晴れ着 明治中期 ▲薬玉文様の晴れ着  明治末〜大正期 ▲五つ紋花尽くしの晴れ着 大正期 ▲茶入れの仕覆文様の晴れ着
宮参りや節句などの折に子どもたちの無事な成長と幸福を願って作られた晴れ着の約50着に、愛らしい守り袋や人形袋、ちりめん細工の玩具など、明治・大正時代に女性たちが手作りした子育てのためのお細工物をご紹介する展覧会です。
 赤ちゃんが誕生し、無事に生後1ヶ月を迎えたことを産土神(うぶすなのかみ)に感謝して報告をする初宮参りの祝い着、生後100日目に行われる食い初めの儀礼用の祝い着、さらに端午の節句や桃の節句などを祝う晴れ着などには、魔よけや招福を意味する文様や、四季の花々、子どもたちの好きな玩具や人形があしらわれて、どれも、愛らしく華やかな雰囲気をもっています。明治時代から昭和時代初期までの晴れ着や、子育てのお細工物作品を通して、親たちの子どもの成長と幸福を願う心や、日本の伝統の美意識にも触れていただければと思います。


 【T 初宮参りの祝い着】
生後一ヶ月の頃、赤ん坊の誕生を産土神に報告し、正式に氏子となる初宮参りの儀式が行われます。  (多くの地域で男児は31日目、女児は32日目に行われます)。この時に赤ん坊が着用する祝い着には特徴があります。反物のひと幅を身ごろとした「一つ身」を二枚がさねで着用することが一般的とされ、表側になる掛け着には、袖口を縫い合わせない「大名袖」の形式が用いられます。男児の掛け着は、染め抜きの五つ紋(前身ごろに2ヵ所・後ろ身ごろに1ヵ所・両袖後ろ側にそれぞれ1ヵ所)で、黒羽二重や色羽二重が好まれ、宝文様や甲冑飾りなど勇ましくめでたい図柄が選ばれます。女児の掛け着にも五つ紋が入りますが、縮緬地の裾に、四季の花や宝文様など華麗な図柄を集中させた形式が目立ちます。この祝い着が里方で用意される場合、男児は実父の定紋、女児は実母の定紋を用い、紋を入れないときには、守り縫いが施され、あるいは「背紋飾り」や「背守り」が置かれます。ここでは、初宮参りの折に身に付ける帽子やよだれかけ、守り袋をあわせて展示します。



▲祝い鯛のよだれかけ
 明治末期
【U 儀礼や節句の祝い着】

 赤ん坊が一生食べ物に困らないようにと、生後100日目頃に行われる「お食い初め」の儀式、11月15日に三歳(髪置の祝い)の女児、五歳(袴着の祝い)の男児、七歳(帯解の祝い)の女児が神社に参拝する「七五三」の儀礼、あるいは端午の節句や桃の節句の祝いなどここでは、初宮詣りに続く晴れの場面に登場した華やかな着物のいくつかを展示します。
 薬玉は、薬草を詰めた香袋と芳香の強い四季の花々を丸く束ね、五色の糸(続命縷)を垂らして壁に掛け飾るもので、平安時代の昔から邪気払いの力があるとして、端午の節句に贈答されました。魔除けの力を秘めた薬玉の華やかな造形は、晴れ着の意匠として、古くから好まれてきました。

【V ちりめん細工と着物のデザイン】

 子どもたちの着物の絵柄には、生命感あふれる花鳥草木や王朝文化を連想させる雅やかな器物の色々が選ばれています。中でも楽しい玩具文様の数々は子どもたちを喜ばせたことでしょう。 様と花文様を組み合わせたもの、昔話や故事を題材にしたものも見られ、小さな着物の中の大胆なデザイン構成には驚かされます。
 ここでは、「花鳥草木」「吉祥」「器物」「玩具」の項目で、子どもの祝い着に見られる絵柄と幕末から明治・大正時代に作られたちりめん細工の題材との共通性について探ります。
▲鶏の親子袋 明治中期
花鳥草木のデザイン

 子どもの着物を飾る絵柄の中で最も多いのは、花や樹木、そして鳥。そこには、四季折々、自然からもたらされる情感を大切にする日本的な感性が表現されていると同時に、季節に応じて輝きをみせる花鳥草木のもつ生命力の強さを子どもの身体に取り込もうという精神が感じられます。
 梅、桜、牡丹、菊、椿などの花々や鶴、孔雀、鳳凰、鴛鴦、鶏、鶯などの鳥もまた、ちりめん細工の題材として、古くから愛されてきました。
 香袋として、あるいは琴爪や薬包などの実用品を収める小袋として使用された明治・大正時代のちりめん細工を紹介します。

吉祥のデザイン
▲隠れ蓑の巾着 明治末期

 七宝、宝珠、小槌、丁子、隠れ蓑、隠れ笠、巻物、蔵の鍵など物心両面の豊かさを象徴する「宝文様」は、子どもの着物のデザインにも欠かせない題材です。咲き乱れる四季の花々に宝文様を組み合わせて、小さな着物の画面からあふれるかりに華やかな絵柄も見られます。
 
▲御簾に鳥兜の小箱/源氏香文様に
朝顔の小箱 江戸末期
器物のデザイン
 檜扇や御簾など王朝文化を感じさせる雅やかな器物、琴や笙、笛や小鼓など日本伝統の楽器、さらにそれらを四季折々の花々と組み合わせた文様は、子どもの着物を華やかに彩りました。
 ここでは、そうした器物がデザインされた愛らしい女児の着物と江戸・明治時代に「きりばめ細工」や「押絵」の技法によって製作された懐中物、小箱を展示します。小箱の蓋や懐中物の小さな画面にも、和歌や古典文芸を連想させる雅やかな器物が描かれています。

玩具のデザイン

 でんでん太鼓やがらがら、ヤジロベエ、達磨、犬張り子、御所人形などの伝統的な玩具は、晴れの日の祝い着にも普段着にも非常に好まれました。中には既に廃絶し、文献の中でしか見られなくなった玩具も見られ、おもちゃ絵の着物は、古い時代の玩具の形を知る上でも興味深い資料です。
 ここでは、初宮詣りに用いられた祝い着や祭礼や節句に身につけた晴れ着に、縮緬小裂で作られた明治・大正時代の優しい手づくり玩具のいろいろを合わせて展示します。



【W 子育てのお細工物】

 子どもの無事な成長を願って作られたちりめんのお細工物の数々をご紹介します。

這子(ほうこ)

 這子は貴族社会が伝える信仰人形です。方形の白絹の隣り合う辺を縫い合わせて手足を作り、綿を詰めたぬいぐるみで、室町時代、這子は産室にあって、産婦や新生児にふりかかる災いを肩代わりしてくれると信じられていました。這子の身体の縫い目がつくる「×」印。ここに魔除けの力が込められました。近世に発展する裁縫お細工物の源流にあたる人形と考えられます。

人形袋とお猿っこ
▲鶴丸と蓑亀の守り袋(巾着) 明治末〜大正期

 這い子人形袋は這い這いする赤ん坊の姿を表したお細工物で、「這子」の形態を受け継ぐ造形のひとつです。這い子人形袋は、持ち主の身を守ってくれるもの、あるいは嫁入りの折に臍(へそ)の緒を入れて持っていくと、子宝に恵まれると伝える地方もありました。赤い猿のお細工物は、魔を「さる(=去る)」まじないが込められた守り袋。両手両脚が結び合わされて出来る「×」印と病魔除けに効果があるとされてきた赤い色がその力を強調しています。
▲甕割り唐子の守り袋
(巾着)大正期
守り袋(巾着)

 元気に外遊びをはじめた子どもの帯には、「守り袋」と呼ばれる巾着が下げられました。
▲子犬の形の迷子札……裏側には「上京区押小路
東洞院東へ入ル町南側
 藤井熊之助 倅 為造」と、子どもの住所氏名が
明記されている。 明治末期
『女学裁縫教授書(明治27年刊)』には、「中に守護札とともに薬や書付などが収められ、持ち主の小児が道に迷ったり、不慮の事故に巻き込まれたりした折に用を為す必需品であった」と解説されています。

迷子札

 高さ5〜9cm。桃や小槌、羽子板をもった童子の「押絵」人形には紐が付けられ、裏側は白絹や木綿、麻が張られています。そこには子どもの住所と氏名が書かれました。遊びに夢中になり、子どもが迷子になった時のためにと、母親は子どもの帯にこうした押絵の札を結びつけて送り出していました。


【X きりばめ細工の袋物】

 ちりめんの小裂を縫いつないで作られる袋物の中には、比較的大型で、自然の風景や人物の絵を描くようにして作られた作品が目立ちます。
歴史物語や王朝物語などの名場面、また、福神や松竹梅、鶴亀などの吉祥文様を大胆に表現した袋物の多くは、下絵に従って縫い代をつけて布を裁ち、絵を描くように部分を縫いつないでいく「きりばめ」の手法が使われています。
 “きりばめ細工”は、技術と根気を要する難しいもので、地域によっては、手の技を嫁ぎ先に披露するものとして、花嫁道具と一緒に持参されました。これらは、寺院へ米や穀物を供えたり、親類知人へ祝いの米を贈ったりする入れ物として使用されていた地域もあります。
  ここでは、“きりばめ細工”の手法で作られた明治・ 大正時代の袋物の色々をご紹介します。中でも、今春、愛知県一宮市在住の袋物収集家・米津為市郎氏から寄贈を受けた作品は見どころです。平家物語にちなむ「鞍馬天狗と牛若丸」「牛若弁慶」「曽我兄弟」ほか、「海上の七福神」や大正時代のモダンな少女たちの暮らしを題材にしたものなど、袋物に表現された手の技と色彩感覚の豊かさをじっくりとご覧下さい。


【Y ちりめん細工〜今と昔〜】

 ちりめん細工は、着物の材料として愛好された縮緬(ちりめん)の残り布を利用して、花、動物、人形などの小袋や小箱、招福や魔除けの袋物などが作るもので、江戸時代後半からの歴史を持ちます。作り手は御殿女中や裕福な町家の女性であり、明治時代は女学校の教材としても取り上げられました。小さな残り布を大切にする心、美的感覚、手先の器用さを身につける手芸として、教養のひとつとして伝承されてきたのです。しかし昭和になると、戦争による世の中の混乱や生活様式の変化の中で何時しか忘れられた存在になりました。
 ちりめん細工が伝える世界の素晴らしさに気付いた日本玩具博物館では、約30年前から資料の蒐集を計ると共にその素晴らしさを知っていただくための展示会や技術伝承のための講習会を開催しています。
 2000年代初頭には、福岡県柳川の「さげもん」や静岡県伊豆・稲取の「つるし飾り」など、雛段の側にちりめん細工を飾る風習が今に蘇えり、大きな関心を呼び起こして全国的にも広がりを見せています。そのような状況も追い風となり、現在、和の手芸「ちりめん細工」は、再び女性の心を捉えて盛り上がりを見せています。
 本展では、当館が所蔵する幕末から明治・大正時代に製作された作品を中心に、現在の作り手によって生み出された作品の数々を、華やかな「傘飾り」を通して、紹介いたします。


展示風景

ちりめん細工の「傘飾り」

 傘は「末広がり」、また、傘の略字の「?」が八十に見えることから長寿の祝いとして使われてきました。その傘に幕を張り、華やかなちりめん細工の数々を吊るした「傘飾り」をご紹介します。
 山形県酒田市の本間美術館所蔵の「風間家雛飾り」には「傘福(かさふく)」と呼ばれる明治時代の傘飾りがあり、近年、雛のつるし飾りブームの中で注目を受けてきました。けれども、実物資料として残された傘福はわずかで、実際に、酒田をはじめとする庄内地方において、雛祭りに傘福を飾る風習が伝えられているわけではありません。数年前、酒田市では、町おこしの題材として雛まつりに傘福を取り上げて大きな反響を呼びました。
 長年にわたってちりめん細工の振興に取り組んできた日本玩具博物館では、新春、雛祭り七夕ななど、四季の儀礼と花鳥風月をテーマに、つるし飾りや傘飾り製作に取り組んでいます。
 ここに展示する傘飾りは、平成18年から22年かけて、「日本玩具博物館ちりめん細工の会」のメンバーによって製作された作品の数々です。

『子どもの晴れ着とちりめん細工』
展示解説会のお知らせ
 乳幼児の着物のカタチとデザインに込められた、魔除けと招福の意味について、ちりめん細工の世界との共通性について、資料を取り出しながら、下記の日時、本会場で当館学芸員・尾崎織女が解説します。ぜひ、ご来場下さい。

■日時……………2010年5月9日(日)・23日(日)・6月13日(日)
            ※14時〜
■会場……………6号館展示室(本会場)