NO53

1号館企画展「海の乗りもの」蒐集裏話。            (2010年6月11日 井上 重義)


 当館の東側は小さな水路を挟んで水田が広がりますが、去る6日に田植えが終わりました。3号館の遊びのコーナーの窓からは、田植えの終わった水田とにぎやかな蛙の合唱が聞こえてきます。田植えが終われば例年、夜になると水路に数匹の蛍が光るのですが今年も姿を見せてくれました。ちょうど1号館の入れ替えでスタッフも夜遅くまで仕事をしており、蛍の姿に感動の声が上がりました。東側は水田、館内や西側は緑に囲まれたのどかな環境に当館はあります。
ロシアのセルギーエフの船

 時事通信社の7月初旬の原稿を7日に届け、8日夕刻から9日の休館日にかけて1号館の入れ替え作業を行いました。無事作業も終わり、1号館の企画展「海の乗りもの」が始まります。正式オープンは明日からですが、1号館は当館の受付でもあり入り口にも当たりますので展示作業が終われば来館者にご覧いただいています。

 50カ国300点もの世界各地の珍しい船の玩具をご覧いただくと、良くぞこれだけのものをどのようにして蒐集できたのか疑問を持たれる方も多いと思います。いつも同じ言葉の繰り返しになりますが、蒐集にはタイミングが必要です。さらに時と人にも恵まれ、世界各地で作られた民族色豊かな船の玩具の数々が消える寸前に蒐集できたのです。
国際見本市で入手したスリランカの船
 当館が世界の玩具の蒐集に取り組んだのは33年前からです。1979年の国際児童年に向けて蒐集を始めました。入手方法は私や当館のスタッフが現地で蒐集、海外の博物館との資料交換、国際見本市会場や国内の海外の民芸品を専門に扱う業者からの購入ですが、大勢の協力のお陰で貴重な資料の数々を蒐集することができました。残念なのは当館と密接な関係があり、永年蒐集にご協力いただいた業者の多くが近年廃業したり経営者が変わって、私たちが欲しい資料が入手できなくなったことです。
メキシコのタラスコ族のカヌー

 当館は東欧やロシア関係の千点を越える貴重な資料の数々を所蔵していますが、その多くが東京の新橋に事務所があったベリョースカ白樺経由でした。今回展示のセルギーエフとセミョーノフの船車、ドウイムコボのボートも同社からです。同社が展示用に所蔵されていた玩具や人形関係の資料も同社が解散する寸前にご連絡をいただき引き取りました。ソ連邦が健在な頃は同国や友好国の民芸品がベリョースカ白樺を総代理店として輸入されていたのです。ソ連邦解体後はウオッカが輸入できなくなり、8年ほど前に同社は解散。その後ロシア関係の資料の入手は不可能に近い状況になりました。
 メキシコやペルーなどの玩具や人形などの膨大な資料を入手できたのは東京吉祥寺に事務所があったチチカカのお陰です。当館のクリスマス展で人気があるペルーの高さ80cmほどもある大型のレタブロ(箱型祭壇)も同社からでした。今回の船の展示でも、ペルーのチチカカ湖のトトラ船、メキシコのタラスコ族のカヌーなどは同社からですが、一昨年同社の設立者が退任後は取り扱い内容も変わり、横浜に移転後は当館とも取引がなくなりました。上京する度に世界の民芸品を扱う業者を訪ねていたのですが、そんな楽しみも減りました。
 当館学芸員が現地採集した貴重な資料も幾つも展示しています。ブラジルのベーレーンやサルバドールの船、エジプトの漁船、ベトナム・ホアルーの竹の船など、これらは現地に行かないと入手できない貴重な資料です。国内のものも寄贈を受けた昭和初期の沖縄のヤンバル船など、数多くの貴重な資料を展示しています。
エジプトの漁船 ブラジルのサルバドールの船 ブラジルのベーレーンの船
 続いて7月3日から、6号館では世界各国の飛行機、汽車、自動車など空と陸の乗りもの玩具を集めた特別展が始まります。当館が長年に亘り蒐集してきた乗物の玩具を「乗りもの玩具博覧会」と題して1号館と6号館で同時に展示する催しですが、楽しく珍しい世界各国の乗りもの玩具の数々に感動されると思います。皆さまのご来館をお待ちしています。

NO52
企画展「ふるさとの武者人形」と
特別展「子どもの晴れ着とちりめん細工」が同時オープン。       (2010年4月22日 井上 重義)

シャガ いま当館の周辺は遅咲き桜が満開です。入り口にある八重桜(関山)は満開を過ぎて花吹雪の状況ですが、駐車場周辺の霞桜が満開で来館者の目を楽しませています。当館館内や周辺の桜は4月下旬に咲く遅咲きが多く約10本もあります。これらは20数年前に日本花の会から寄贈いただいた苗木が大きく成長したのです。もうしばらくは遅咲きの桜を楽しんでいただけるでしょう。庭も椿の季節は終わりましたがシャガや白山吹の花が満開です。
 佐野美術館の「ちりめん細工の世界」は去る5日で終わりましたが、尾崎学芸員が「学芸室から」で報告しているように予想通りの大盛況でした。
能勢さんからの大浜土人形(1号館)


 当館の1号館企画展と6号館特別展はいつも少し時期をずらしてオープンするのですが、手違いでこの24日に同時オープンと発表したことから2つの館での展示作業が重なり、この10日間は多忙な毎日でした。昨夜1号館の「ふるさとの武者人形」の展示作業が終わりやっとひと息つきましたが、その間に3号館のちりめん細工の常設展示コーナーも当館ちりめん細工研究会所属会員の出品による「傘飾りと吊るし飾り展」に換える展示作業を行い、3つの館での入れ替え作業がありました。しかし私にはこの後も大仕事が残っています。収蔵庫外に積み上げられた膨大な数の段ボール箱を運び込む作業で、パズルのように組み上げ積み上げて収蔵庫にしまいます。
米津さんからのきりばめ細工の袋(6号館)

 3館の展示はともに初公開の資料が多く、喜んでいただける展示になりました。とりわけ6号館の「子どもの晴れ着とちりめん細工」の子どもの晴れ着は、この20年間重点をおいて蒐集してきた資料のひとつで、約100着を所蔵していますがその半数を展示しました。ちりめん細工の古作も初公開のものが多く、先日から公開していますが来館者からは感動の言葉が聞かれます。
 1号館の「ふるさとの武者人形」の展示の中心は土人形です。武者人形が100体を超え、後は金太郎や虎などで合計約300点です。このように土人形が1号館でまとまって展示されるのは16年ぶりです。3号館のちりめん細工の傘飾りや吊るし飾りの展示も、それぞれに工夫を凝らしたり意表をついた作品が多く皆様に喜ばれるでしょう。

 私は開館以来「博物館の使命は失われ行く文化遺産を蒐集保存し、後世に伝えることにある」として当館ならではのコレクション形成を図ってきました。私たちの姿勢が信頼と評価を受けるのか、今年に入ってからも貴重な資料の寄贈が相次いでいます。岐阜県一宮市の米津さんから長年
コレクションに加わった豪華な座敷幟
に亘り蒐集されてきた大型のきりばめ細工の袋物19点の寄贈を受け、大阪の能勢泰明さんのご遺族からも大正から昭和初期の絵葉書や土人形などの寄贈を再度受けました。いずれも今回の企画展と特別展とにかかわる資料でもあり、早速に展示させていただきました。雛人形や端午の節句に係わる資料も継続してコレクションの充実を図っており、昭和初期の豪華な座敷幟などを入手しましたが増え続ける資料で収蔵庫がパンク状態でその対策が大きな課題です

 朝日新聞で4月18日から始まった連載企画「文化変調」は全国の博物館の現状を取り上げて興味津々ですが、文化遺産を蒐集し守るために作られたはずの博物館が財政難という現実に直面して続々と閉館になっている状況が報告されています。
 「乱立の末博物館重荷」と見出しにありましたが、現在の博物館冬の時代を招いた責任のひとつは、特色ある資料も持たずコレクションも充実させないで安易にハコを乱立させた自治体にもあるのではないでしょうか。博物館や美術館の歴史を辿っていただくと分かることですが、自治体が設立する以前に、各地で民間の博物館や美術館が設立されていました。民間といえば営利のために活動しているという見方がされがちですが、私同様に文化遺産を守るという使命感を持ち、資料を蒐集し自治体に先駆けて博物館や美術館を設立したところが多いのです。しかしそれらに対する支援や連携が無いなかで多くが閉館の途を辿り,貴重な文化遺産が散逸した例をいくつも見てきました。自治体も豪華なハコを次々に建設しましたが厳しい状況下にあります。貴重な資料を持つ民間の博物館と自治体とが連携をして、中身の充実した魅力的な博物館が何故造れなかったのでしょうか。


NO51
時事通信社の連載コラム「ふるさとの玩具」          (2010年3月2日 井上 重義)


 当館の庭に植えている春咲きの椿の花が次々に開き始めました。これらの椿は市内在住の愛好家のご好意で苗木を植えたのが開花するようになったもので、孔雀椿や月光椿、玉之浦椿など名品も少なくありません。これからしばらくの間は、椿の花もお楽しみいただけます。

 この1月1日から時事通信社の配信による私の連載コラム「ふるさとの玩具」が始まり2ヶ月が過ぎました。以前も館長室(1月1日付)で申し上げましたが10日毎に10日分の原稿を届けます。200文字ほどの文章と写真ですが、玩具が収蔵庫から見つからなくって右往左往することがしばしあり、それに作者の現状や今も作られているかどうかの現状確認などで予想以上に手間取り、昨日、3月下旬の原稿を送りやっとひと息つきました。

 嬉しいのは私の署名があることから読者から反応があることです。全国のいくつか
の地方新聞に連載されていますが、幸いにも地元の神戸新聞に毎日カラーで掲載されているため、ご来館くださったり、近所の方に「読んでいます。スクラップしています」と嬉しいお言葉をいただいたり、長野県や宮城県からも読んでいますと問い合わせをいただいたりで、私にとっては大きな励みです。

1月23日掲載「うずら車」(宮崎市) 2月6日掲載「肥後手まり」(熊本市) 2月15日掲載「裏奴凧」(大分県臼杵市)
 連載にあたり私は低迷する郷土玩具の現状から、少しでも郷土玩具に関心を持っていただければと考えて引き受けました。沖
2月21日掲載「太鼓山」(長崎市)
縄から始まり、鹿児島、宮崎、大分、熊本、福岡、佐賀、愛媛まで原稿を届けましたが、各地の郷土玩具の厳しい現状が分かりました。後継者もなく廃絶したり、廃絶寸前のものが余りにも多いのです。値段も決して高くはないのですが売れないという言葉もよく聞きました。県による差もあり、かつては物産館で売っていたが今は扱っていない、協会に加入していないので売っていないし実情も分からないという言葉も耳にしました。ふるさとの風土が生み出した郷土玩具が「それぞれの郷土の誇るべき文化財である」との認識がなく、たかが子供のものだと思われているのではないかとも思いました。

 当館は過去にアメリカ、スイス、ベルギー、ブラジルなどで所蔵する日本の郷土玩具展を開催しましたが、郷土玩具がわが国では「子どものもの」という先入観からか評価されることが少ないのに、海外では日本人の美意識や造型感覚を表現したアート作品として高い評価を受けたことに驚いた経験もあります。先日、ロンドンから来館されたご夫妻(奥様は日本人)と話し合う機会がありましたが、外国人が見たいのはこのような博物館ですと嬉しい言葉をいただきました。
 ふるさとの玩具=郷土玩具は単なる子供の遊び道具ではなく、それぞれの地に住む人々の美意識や造型感覚を表現した文化遺産であり、過ぎ去った時代の風俗や暮らしぶりが遺された資料でもあり、大切に守られる必要があると考えるのです。この度の連載では現存する作品だけでなく、地元の人からも忘れられている大正や昭和初期の作品も順次紹介したいと考えています。 


NO50
佐野美術館「ちりめん細工の世界」展によせて   (2010年2月28日 井上 重義)

マンサクの花
 あすから3月です。当館の庭も急に春めきました。椿の花がつぎつぎと花開き、万作の花も満開です。地表にはユキワリイチゲや福寿草の可憐な花も咲いて春の気配があちこちに漂っています。
昭和時代の雛人形(当館6号館で展示中)

 1号館の企画展「ふるさとの雛人形」が昨日から始まりましたが、それを待ちかねたかのように大勢の皆様がご来館くださいました。5号館は昭和30〜40年代のお雛様、さらに6号館は「雛まつり〜江戸から昭和のお雛さま〜」と館内3館で雛人形が見られるとあって、存分に雛人形の世界に浸り、早春の花々に至福の時間を過ごしていただいています。何人もの方から「すばらしい展示ですね」「お雛様だけでなく懐かしいものがいっぱいで楽しかったです」と嬉しいお言葉をかけていただき、6号館前の感想ノートにも「お雛さんが素晴らしい」「感動しました」と書かれていました。いつも思うことですが、博物館はいろいろな意味で来館者を満足させる魅力的な資料をもち展示することが大切であることを再認識した次第です。
佐野美術館展示風景
佐野美術館展示風景(ちりめん細工雛人形)
佐野美術館において熱心に展示を鑑賞する来館者

 去る20日から当館資料による特別展「ちりめん細工の世界」が始まった静岡県三島市の佐野美術館にも大勢の方がお越し下さっています。嬉しいことに初日の講演会も定員オーバー、また当館ちりめん細工講師による体験講座(4回)も早々と満席になり締め切られました。このようなことは最近では珍しいです、と佐野美術館の担当者の方にお聞きしました。
 この展覧会は伊豆稲取の雛の吊るし飾りの影響でちりめん細工に関心が高いこの地域の皆さまに、質の高い本物のちりめん細工を一人でも多くの方に見ていただきたいという私の考えから、同館にお願いをして実現をしたのです。というのも初日の私の講演「ちりめん細工の再興活動について」のなかでもお話したのですが、私たちが長年に亘り日本女性の美意識や造形感覚を表現した手の技の芸術品として再興に取り組んできたちりめん細工が、ここ数年来、中国製のまがい物が「ちりめん細工」の
名で京都をはじめ各地の観光地で売られるようになって、ちりめん細工=安物の土産品というイメージが広がり「悪貨が良貨を駆逐する」状況が生まれているからです。その払拭には、一人でも多くの方に本物のちりめん細工をご覧いただき、その素晴らしさを認識いただくことが大切だと思うのです。
 今回の展示は2007年に開催したたばこと塩の博物館での展示を上回る規模と内容です。
再版した3冊の書籍
新しい収蔵品も沢山出品しており、皆さまの感動を呼び起す展示であると思います。ぜひお誘いあってご覧下さい。
 また雄鷄社から私の監修で出版し、同社倒産後は絶版になり入手不可能になっていた『四季を彩るちりめん細工』『和の布遊びちりめん細工』『ちりめん細工季節の吊るし飾り』の3冊を当館が著作権を買い取りこの展覧会に間に合うように再版しました。いずれも古書市場で高値がついている本ですが、会期中は佐野美術館でお求めいただけます。







NO49
政府広報誌『キャビネット』1月号に掲載されました       (2010年1月1日 井上 重義)

 新年明けましておめでとうございます。
 厳しい経済情勢を反映して、博物館を取り巻く状況は好転の兆しが見えませんが、当館には新春早々、嬉しいニュースが舞い込みました。政府広報誌『キャビネット』1月号の「旬の人時の人」に取り上げられました。内容は「国内屈指の凧あげ祭りの開催で、町に新たな文化と活力を」と題して、1975年以来、当館が開催してきた全国凧あげ祭りが見開きで大きく紹介されました。
 この全国凧あげ祭りは当館が開館した翌年の新春から、日本各地に伝わる和凧の素晴らしさの紹介と子供たちに凧揚げの楽しさを伝えたいと始めましたが、当館の成長と共に大きく発展。伝統的な凧揚げ行事がなかった地で、一歩一歩歴史を刻み、大勢の協力もあって新春の凧揚げ行事としては国内屈指のものに成長したのです。
 今年は1月10日(日)に開催しますが、当館の呼びかけに応えて、全国各地から400人もの凧愛好者や保存会の皆様がご参加くださいます。特に今回は初参加者が多く、新潟、能登半島、神奈川、静岡、山梨、長野、愛知、奈良、京都、大阪、隠岐の島、山口、徳島、香川、長崎などのほか、地元兵庫からも大勢が自慢の凧を持って参加されます。天候に恵まれれば青森県の津軽凧から長崎県五島列島のバラモン凧まで日本各地の珍しい伝統凧が新春の空を美しく彩り、例年どおり私が揚がった凧を解説。大空を舞台にした伝統凧の競演が繰り広げられます。4日頃にはどのような凧が参加するか速報を流しますので詳しくはそれをご覧下さい。
新潟六角凧と愛媛五十崎の凧 六角凧と鬼ようず 長崎五島列島のバラモン凧 徳島のわんわん凧
津軽凧 讃岐のつり鐘凧
 また時事通信社からの依頼でこの1年間、毎日、「ふるさとの玩具」と題して、写真と180字ほどの文章で、日本各地の郷土玩具を紹介する事になりました。10日ごとに10回分の原稿を届け、1月中の原稿は届けましたが、この一ヶ月余り、そのことで頭がいっぱいでした。大変な仕事であることを実感しています。
 引き受けたのは、日本各地の郷土玩具の多くが後継者もないままに廃絶の途を辿り、その情報も流れることが少なく、忘れられようとしている現状から、多くの皆様に郷土玩具の素晴らしさを伝えることが必要だと考えました。それに私の玩具収集の原点は郷土玩具であり、人生最後の大仕事として郷土玩具のために役立ちたいと思ったからです。

 今年も仕事に追われる毎日となりそうです。
 変わらぬご指導とご支援を賜りますよう心からお願い申しあげます。

第36回凧あげ祭りについての詳細ページ



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