NO. 220
今冬ふたつの「世界のクリスマス展」――神戸KIITOと日本玩具博物館・その2
                                  (2017.12.18 学芸員・尾崎織女)
当館1号館囲炉裏端のクリスマス
ツリー本物の姫りんごと麦わら細工を
吊るしています。
今年の春、北の国へと渡っていったシロハラ――「ぽんちゃん」と名付けて親しんいた個体――が11
シロハラのぽんちゃん
月下旬、玩具博物館の庭へ帰ってきました。たくさんの来館者に臆することもなく、クリスマス展会場の前庭をポンポンと跳ねまわっては、地面をつついてミミズなどを食べています。3年続けて館の庭へやってきてくれた「ぽんちゃん」の存在が私たちには愛おしくてなりません。ご来館の方々には、館の庭で一羽のシロハラを見かけられたら、「あれがぽんちゃんだな…」と目をとめて下されば幸いです。

さて、今年の「世界のクリスマス展」の内なるテーマは、自然の恵みを感じるクリスマス。
16世紀、アルザス地方でクリスマスにモミの木を飾る風習が誕生したころに想いをはせて、赤い姫りんごを飾ってみたいと思っていたところ、仏蘭西菓子の研究者・三久保美加さんのご紹介で、青森県黒石市のりんご農家・今智之さんがかわいい姫りんごをたくさんお送り下さいました。
KIITOのクリスマスオーナメント・ワークショップ
のチラシ。新人・原田学芸員のデザインです。

1号館の囲炉裏のそばのドイツのツリー(120㎝)に飾っているのですが、傍に寄るとふんわりと甘い香りが漂ってきます。豊かな実りのイメージを感じさせる美しいクリスマスツリーだと来館者の皆さんが長い時間、足をとめ、しみじみと眺めておられます。三久保さん、今さんに心より感謝申し上げます。
                 
先の学芸室からNo.219でもご報告しましたとおり、今冬はいつもの6号館と神戸会場(デザイン・クリエイティブセンター神戸KIITO)の二箇所でクリスマス展を開催しています。土・日曜日には各会場で展示解説会やオーナメントを作る講座などを開いてご参加の皆さんとクリスマス・アドベント(待降節)を楽しんいます。
神戸会場では、11月26日(日)に「きりがみの星飾り」、12月10日(日)に「デンマーク風ハートのオーナメント」、12月16日(土)に「ノルウェーのニッセ」をそれぞれ手作りする講座を計画し、ギャラリー・トークと合わせてお楽しみいただきました。
玩具博物館で二十年あまり、積み重ねてきた活動を神戸でご紹介するものという位置づけでしたが、3回、すべてにご参加下さった方もあり、また「毎年、神戸でこのような講座を開いてほしい」という感想も多く聞かれ、一年限りの博物館活動の寂しさを感じるところでもあります。

3日間の様子を画像でご報告いたします。
11月26日、ギャラリートークのあと、「きりがみ細工の星飾り」を作りました。
12月10日、ギャラリートークのあと、デンマーク風ハートのオーナメント(サシェ)を作りました。
12月16日、ギャラリートークのあと、ノルウェー風ニッセのオーナメント(サシェ)を作りました。

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玩具博物館でも恒例の展示解説会やクリスマスオーナメント作りを開催しています。展示品の中から、毎年、ひとつかふたつ、各地の伝承的なオーナメントをとりあげ、素材や形の意味を考えながら手作りしてみる講座です。今年はドイツや北欧で愛されるまつかさを使ったツリー飾りをご紹介しました。ヨーロッパのクリスマスオーナメントの素材には木の実やまつかさなどがよく使われます。クリスマスは古来、自然の豊かな恵みに感謝を捧げる祭礼であり、木の実やまつかさなどは、まさに森の恵みを象徴するものであったからです。
12月17日は、博物館学を学ぶ学生さんたちが参加され、瑞々しい感性がクリスマス展会場に満ちた一日でした。当日の様子を画像でご報告いたします。

12月17日、展示解説会風景
ドイツの「まつかさの妖精」を作りました。出来上がったオーナメントをツリーに飾ったら、クリスマスアドベントに食べるドイツ・ドレスデンの郷土菓子
   「シュトーレン」(木の実たっぷり)を参加者と一緒にいただきました。
クリスマス・アドベントの第三主日を過ぎて、クリスマスまであと一週間。館内では12月23日(土/祝)にクリスマス絵本の朗読会と解説会、神戸会場では12月24日(日)にギャラリー・トークを開催いたします。ふたつのクリスマス展、まだまだお楽しみいただきたい!!と思っています。


NO. 219
今冬ふたつの「世界のクリスマス展」――神戸KIITOと日本玩具博物館
                                  (2017.11.5  学芸員・尾崎織女)
当館6号館のクリスマス展風景
~ドイツのクリスマス~
11月に入って気温が急降下、ひんやりとした空気の中で、木々の葉が色づきはじめました。
学芸室では「世界のクリスマス展」準備に懸命になって秋の日々を過ごし、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の「TOY&DOLL COLLECTION」会場では10月18日から、当館6号館では11月3日から、それぞれのクリスマス展を無事オープンいたしました。

神戸KIITOでは、北欧、中欧、東欧、南欧、北米、中南米、アフリカ、アジア(日本を含む)…と地域に分けて、代表的なオーナメントを紹介しています。日本玩具博物館の「世界のクリスマス展」の
神戸KIITOクリスマス展示コーナーGATE
エッセンスを詰め込んだ展示内容です。今回、初めてこのコーナーの中央に高さ3mの日本製クリスマスツリーを立てました。
あまり知られていないことですが、日本のクリスマス産業の発祥地は神戸です。明治30年頃にはすでに、ヒノキなどの経木からクリスマスツリーの飾りが作られていました。丹波地方の春日町は明治後半から昭和初期頃まで経木の製造が盛んに行われ、神戸において、染色や製織が施されて海外へと輸出されていました。それらは「経木モール」とか「筵(むしろ)モール」とかの名で呼ばれたそうですが、今のところ、私たちはその現物を収集出来ていません。
私たちの大型クリスマスツリーは、1990年代に「日本クリスマス工業会」所属の中城産業株式会社より寄贈を受けたもので、そこにドイツ製のオーナメント――1994年にババリア地方ヘロルズベルグのヘルガ・ライニッシュ工房より輸入したもの――をつるし飾っています。パイン材の経木を細工して太陽や星に見立てたオーナメントで、ひょっとしたら、戦前、欧米各国へと輸出されていた日本製の経木オーナメントとつながりがあるのかもしれません。神戸港から輸出されたクリスマス飾りに思いをはせて、美しいドイツのオーナメントをご覧いただければと思います。
神戸KIITO会場のクリスマス展示風景を少しご紹介いたします。
ヨーロッパのクリスマス展示風景  北米・中南米のクリスマス展示風景
日本のクリスマスツリー(昭和30年代)
当館6号館のクリスマス展風景
~北欧のクリスマス~
そんなわけで日本玩具博物館・世界のクリスマスコレクションのエッセンス組がKIITOへ出張していますので、留守組の資料群によって、6号館には、毎年のクリスマス展とはイメージの異なる展示風景を作ろうと努めたのですが、果たして、皆さまにはどのようにご覧いただけるでしょうか。今冬の秘めたるテーマは、豊かな実りを祝うクリスマス、自然感にあふれるクリスマス――。自然素材のオーナメントを多数出展し、モミの木だけでなく木の枝に麦わら細工やきびがら細工、まつぼっくりやどんぐり、木の実を表わすオーナメントをつるし飾っています。
数えれば、6号館会場には大小56本のモミの木を表わすツリーが立ちました。モミをクリスマスに飾る習慣は中世にさかのぼります。1521年、クリスマスツリー用に初めてモミの木が売られたと記された文書がフランス・アルザス地方の図書館に保存
本物のリンゴをつるしたツリー
~アルザス地方の“始まりの頃”の
クリスマスツリーに想いを寄せて~
されているそうです。クリスマスイブ、教会にはモミの木が置かれ、ミサの韻文劇「アダムとイヴ」の中で天国にたつ樹木として使われたといいます。その木にはリンゴの実が飾られていたことから、ツリーのオーナメントの始まりのひとつは赤いリンゴだったと考えられています。クリスマスツリーを飾る風習は、アルザスから中欧、やがて東欧、北欧や北米へも広がり、第二次世界大戦後にはアメリカ合衆国経由で南欧にも伝えられます。
今や世界規模で親しまれるクリスマスツリー――その始まりの頃を想い、姫リンゴを飾りたいと考えていたところ、夕べ、いきつけのスーパーマーケットの果物コーナーをのぞいたら、なんと、ひと袋だけ「長野県産・アルプス乙女(JAみなみ信州)」という銘柄の姫リンゴが並んでいました。嬉しくなって、そのひと袋を求め(8個入っていました)、世界のクリスマス展会場入り口に小さなリンゴのツリーを立てました。やがて19世紀、本物のリンゴは吹きガラスの赤いグラスボールへと発展をしていきますが、姫リンゴを飾った小さなツリーは香りが芳しく、豊かな実りへの感謝が溢れているように感じられて本当によいものだと思います。

今冬は、神戸と香寺――ふたつの会場のクリスマス展を合わせてお楽しみいただければ幸いです。



NO. 218
「世界の民族楽器と音の出るおもちゃ展」の秋
                                  (2017.10.2  学芸員・尾崎織女)
6月から開催している特別展『世界の民族楽器と音の出るおもちゃ展』は、音楽の秋を迎え、特に楽器好きの皆さんにご好評をいただいております。
去る10月1日は、中国笛奏者の寺田瑞穂さんをお迎えし、1時30分からと3時からの2回を設定して、「中国大陸の笛・形と音色」と題する展示室ライブを開催しました。笛子(曲笛・梆笛)、口笛、巴烏、洞簫、排簫、塤、葫蘆絲など、中国の民族笛のお話を伺いながら、それぞれの音色を楽しめる中国曲を演奏いただくという企画です。会場の皆さんには、曲のテーマに合わせて、鳩笛やカッコウ笛、ふくろう笛、ニワトリ、ウグイス笛、シンギングバード、木魚に鈴にと、いろんな発音玩具を手に即興で演奏にご参加いただいたのですが、時にそれがとても楽しく面白く、奏者の寺田さんが笑って一瞬、吹けなくなるひと幕も…。瓢箪(ヒョウタン)を使った雲南省の民族笛「葫蘆絲(hulusi)」の仲間として、インドやスリランカでヘビ使いの笛として知られるプーンギをご紹介したり、中国古代の素朴な土製のオカリナ「塤(xun)」につながるものとして、日本の弥生笛を紹介したり、また「洞簫(dongxiao)」の兄弟として日本の尺八をとりあげたり…と、展示品を取り出す
ことでアジアのつながりや民族の求める音の独自性についても親しく感じていただけるひとときをつくれたのではないかと思います。
寺田瑞穂さんは、保育や幼児教育を学ばれていた学生時代から日本玩具博物館を愛し、親しくお付き合いいただいてきた方。上海で出合った笛子(dizi)の独特の音色に魅せられて笛子を始められ、20年以上に亘って編成の大きな楽団活動と併行して様々なジャンルの奏者とともに広く演奏活動を行い、また中国笛の指導もなさっておられます。寺田さん、心のこもった演奏とお話、ありがとうございました。ご参加くださいました皆様には楽しく楽曲に参加くださり、心より感謝申し上げます。
展示室ライブの様子・・・・会場の皆さんは鳥笛や音具で演奏に参加。
中国古代のオカリナ(復刻版)
塤(xun)
日本の弥生笛(複製)
塤(xun)の演奏の様子
昨年9月から日本経済新聞土曜日夕刊の「モノごころヒト語り」と題するコラムにひと月1回のペースで玩具のあれこれを書かせていただい
日経新聞土曜日夕刊9月30日付
ております。長野県松本市におもちゃ工房を構える小松つよしさんが作られる「リスの森のころる」の音色が大好きで、赤ちゃんのお誕生祝いに差し上げたところ、ママと赤ちゃんがとても喜んで下さったことから、前回は「がらがら」をとりあげました。古代インダス文明や古代ギリシャ時代の遺跡からも出土するがらがらの長い歴史のこと、近世ヨーロッパのがらがらの材質に秘められた呪術性のこと、もっと触れたいこともあったのですが、論点をしぼってまとめるのはとても難しい・・・。もしよろしければお読みくださいませ。
「世界の民族楽器と音の出るおもちゃ展」では、世界各国で作られれた130点のがらがらを展示中です。——―――来週の日曜日は、これらの造形を見つめ、世界の国の人たちが子どもたちのために作る音色に耳を傾けてみる、そんな解説会を開きたいと思っています。

「世界のがらがら」展示風景
小松つよしさんのがらがら
「リスの森のころる」と赤ちゃん






NO. 217
八朔・重陽2017
                               (2017.9.25  学芸員・尾崎織女)
KIITOの「TOY&DOLL_ COLLECTION」会場と玩具博物館を行ったり来たりしながら、目の前の課題に忙しく暮らすうちに夏が終わり、早、お彼岸も過ぎていきます。館の駐車場の棗(ナツメ)の木が今秋はたくさんの実をつけてくれました。乾燥棗を作って、端午の粽(ちまき)の具にしようかと今、天日干しの最中です。

ここ数年、私は西日本の海岸部のあちらこちらに伝承される八朔行事――兵庫県室津の「八朔ひな祭り」、広島県宮島の「たのもさん」、岡山県牛窓の“ししこま”がお供えされる「八朔ひな祭り」、香川県丸亀の“団子馬”が贈られる「八朔まつり」など――を興味深く見学してきました。今年も、KIITOの展示替えや来年の企画展準備などの合間を縫って、福岡県遠賀郡芦屋町で開催された「第12回筑前芦屋だごびーなとわら馬まつり」を訪ねることが出来ました。
芦屋の漁師町・浜崎地区
八朔とは旧暦8月1日のこと。郷土玩具の世界で「芦屋の八朔馬」の名で親しまれてきたわら馬は、今も芦屋の人々の手で作り伝えられています。八朔の日、初節句を迎える男児(長男)の祝いにはわら馬が、女児(長女)の祝いには「ダゴビーナ」と呼ばれる米粉を蒸して(近年は茹でて)色付けした団子の細工物が親類縁者や近隣の人々からその子たちの家に届けられます。
催事の期間(今年は9月16日~24日)には、芦屋町中央公民館、芦屋観光協会、国民宿舎、芦屋釜の里、芦屋歴史の里(歴史民俗資料館)の各所で、この地域独特の八朔飾り――大漁旗を背景に数段のひな壇を埋め尽くすわら馬とダゴビーナ(=団子雛)、両脇のホウセンカ(ツマグロ)、笹に金銀の矢――が資料とともに展示されており、そうした施設を巡りながら、来場者や町の方々にいろいろお話を伺いました。お話によると、今、八朔行事を続けているのは、遠賀川が響灘にそそぐ西側に位置する浜崎地区。今年はこの地区の一軒が、ひと月遅れの八朔、9月1日に昔ながらの祝いをなさったそうです。浜崎地区は漁師町。地区の方々のつながりの深さと昔ながらの住環境、行事への愛着の深さが伝承を支えています。

男児のために贈られるわら馬(ウマ) 芦屋観光協会に掲示された写真
―八朔飾りと祝いの様子―
 女児のために贈られる団子雛(ダゴビーナ)
芦屋歴史の里の展示風景
大型の馬は台車に乗せて引き出されたもの(戦後は途絶えた風習)。 
芦屋中央公民館の八朔飾り
催事の最終日、これらは来場者に配布される。
玩具博物館のコレクション展示では、例えば八朔のまつりから「わら馬」だけをすくい上げて紹介することが多いのですが、本来の場所に収まった彼らの姿は生き生きとして美しいものでした。お盆過ぎにはわら馬作りやダンゴビーナ作りを次代に伝承するため、NIさんやIKさんなどの“上手”を中心に町の皆さんが集ってワークショップが開かれているそうです。
芦屋の八朔行事は、国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財指定を受けて、平成22年、その歴史をたどり、現状を調査し、行事について様々な角度から考察がなされた素晴らしい報告書『芦屋の八朔行事』が芦屋市教育委員会によって編まれています。芦屋歴史の里(歴史民俗資料館)では同年に制作されたDVDによって八朔行事の様子をわかりやすく拝見することが出来ます。今回の見学では、突然の訪問にもかかわらず、同館の学芸員Y氏が浜崎地区をご案内の上、興味深いお話を聞かせて下さいました。町の行事の位置づけと伝承に、博物館施設の働きがいかに大切か―――。その核となって力を尽くしておられるY氏のお仕事に深い敬意と共感を覚えた芦屋訪問でした。

暦は前後しますが、新暦重陽を過ぎた頃、来年、たばこと塩の博物館で開催する展覧会の打ち合わせに井上館長と上京しました。少し時間が出来たので、杉並区の大宮八幡宮で催行されている重陽節の「菊の着せ(被せ)綿」を拝見することが出来ました。
大宮八幡宮の清涼殿の扉を開けると、大輪の菊花に真綿がたっぷりと着せられ―――白菊には黄色の真綿、黄菊には紅い真綿、紅い菊には白い真綿――、あでやかにまとめられていました。
重陽の日の前夜、咲き香る菊花に真綿を着せ、あくる早朝、菊花の香りを帯びたつゆを含む真綿で身を湿すことで不老長寿を願うこの古式ゆかしい風習は、貴族社会から武家社会、江戸時代後期には庶民の間でも盛んに行われましたが、明治時代初めに途絶えてしまいました。京都では市比売神社や車折神社の重陽祭、また法輪寺では重陽会が行われていますが、このような節句飾りを拝見できる施設は非常に少ないと思われます。人形玩具に表れる意匠や造形に込められた意味を深く知る上でも、四季折々、節句行事へのまなざしはとても大切であると感じます。


 大宮八幡宮(杉並区)の重陽祭
 「菊のきせ綿」飾り


NO. 216
当館らんぷの家の七夕と三芳町立歴史民俗資料館・旧池上家(埼玉県)の七夕
                                         (2017.8.5  学芸員・尾崎織女)

はや立秋が近づき、ひと月遅れの8月7日に七夕を祝う地域や家庭では笹飾りの準備をなさっておられることでしょう。典型的な播磨地方
播磨地方の七夕――2本の笹飾りの間に竹を渡して
 一段目には対にした野菜をいろいろ、二段目には
 “七夕さんの着物”を並べ飾りました。
の七夕は、2本の笹飾りの間に1本の女竹を渡し、そこに、色づき始めたホオズキ、やっと穂が出始めたイネ、初生りのカキ、クリ、イチジク、そしてナスやキュウリやトマトなど、畑の野菜をそれぞれ一対にして吊るすものです。「七夕さんはハツモン喰いやから…」と明治時代生まれの古老たちがよく話しておられました。それは、天の七夕の二星に捧げるものであり、秋の豊作祈願でもあり、また、江戸後期の文献の絵図と見比べてみると、かつての盆棚のしつらえによく似ていることから、祖霊迎えとの関わりも深いと考えられます。
実りはじめた畑の野菜をとり、棕櫚の葉を
 裂いたものやカラムシの茎からとった

 繊維で一対に組み合わせます。
そうした野菜をつるす七夕飾りに、塩田で栄えた播磨灘沿岸地帯、また銀山で栄えた生野町にのみ伝わる“七夕さんの着物”の飾りを加えて、今年もランプの家の縁側に七夕飾りを行いました。野菜と着物の合体した七夕飾りは、昭和30年代頃までは市川沿いの町々に点在してみられました
来館者は、「子ども時代に見た縁側の風景、風や匂い、家族の顔・・・それらが今、ふっとよみがえりました」と懐かしい目をして話されます。自然環境、住環境が変わってしまい、なかなか触れ合える機会のないものとなってしまいましたが、子ども時代に初めて出会った風景が家庭や社会の温かさとともにいつまでも心に残されていくことを思えば、季節感あふれる伝承の風景を毎年、つくり続けたいと思うのです。


******

昨年のひと月遅れの七夕は、さいたま市の大宮地区子ども会連合会からのお招きを受け、「江戸時代のおもちゃのワークショップ」に出かけたのですが、その明くる
三芳町立歴史民俗資料館・旧池上家の
 七夕 “ホシイワイ”のマコモ馬
日、ご縁あってマコモ馬が飾られる七夕風景に出合うことが出来ました。
埼玉県入間郡三芳町立歴史民俗資料館が管理される旧池上家は幕末期に栄えた豊かな農家。美しい茅葺き屋根の旧池上家では、この地域に伝えられてきた四季折々の生活文化が動態展示されています。資料館の解説によると―――かつて、この地方の七夕は“ホシイワイ”と呼ばれていました。8月7日に笹飾りが立てられ、軒先には近くの水辺から刈り取ったマコモ(真菰)で作った一対
マコモ(真菰)を束ねたリ編んだりして作られた
  マコモ馬(向かって右が牡馬・左が雌馬)
の馬が飾られました。マコモは庭先に10日間ほど干したものが使われます。頭をもたげた牡馬と首を低くのばした雌馬の一対を天の二星に捧げます。七夕が終わると、子ども達がしばらく遊んだあと、天の川に届くようにと祈りながら、屋根の上に投げ上げてそのまま置かれたそうです。縁側には畑で採れるナスやキュウリ、西瓜、トマトなどの野菜を箕に入れて、小麦饅頭とともに供え、作物の豊作が願われました。 “七夕は朝まんじゅうに昼うどん” といわれ、七夕の日は、身体の疲れをのぞき、しっかりと休息をとる農休日でもあったということです。
                    
20数年前、横浜市の根岸競馬記念公苑・馬の博物館の特別展『わらうま―その民俗と造形―』(昭和63年)の図録の中に旧池上家の七夕飾りをみた時から訪ねたく思っていました。今では、資料が把握されている限りにおいて、マコマ馬を飾って七夕を祝う家庭は残っていないそうです。けれど度々、ワークショップが計画され、次代への伝承が図られていますので、町内に分け入ってみると、習い覚えた方々がマコモ馬を飾って七夕の夜を過ごしておられるかもしれません。時代が移り変わっても、ぶれることなく博物館活動を続けておられる三芳町立歴史民俗資料館の存在をうれしく思ったことです。今年も三芳町を訪ねれば
カンカン照りの空の下、茅葺き屋根の軒深く、涼しげな“ホシイワイ”の風景に出合えることでしょう。



NO. 215
楽器の音・おもちゃの音
                              (2017.7.16  学芸員・尾崎織女)
大暑を前に、蒸し暑く過ごしにくい日々が続いていますが、皆様にはお元気でいらっしゃいますか。
日本玩具博物館でも、またKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)の方でも子どもたちの夏休みを迎える準備が少しずつ整い、どんな出会いが待っているか、わくわく感が高まる今日この頃です。

6号館の「世界の民族楽器と音のでるおもちゃ展」会場では、展示室に設置した楽器や玩具を手にとって、誰かがナイジェリアの“パームナッツのジングル”を鳴らせば、誰かがベトナムの木魚を打ち鳴らし、小さな子がインドネシアのでんでん太鼓をバタバタと振れば、別の誰かがチリのレインスティックで応じます。やがてなんとなくリズムが合ってきて、セッションとなっていく様子はなんとも前衛的で、リオデジャネイロの町の喫茶店にいるかのような楽しさです。

先日は、法螺貝を抱えた男性がこの特別展を目指して来館されました。「ちょっと、この法螺貝を吹きましょうか?!」というお申し出をありがたくお受けして、即席のミニライブ“法螺貝と尺八の音色”――何千回の修業を重ねて出るようになったという石鎚立螺の様々な音色を、居合わせた方々と一緒に聴きました。魔を払うという渦巻くような深い音にしばし暑さも遠のきました。この展示期間には、こんなふうに楽器を携えた方々がお越しになり、即興演奏&即席ライブとなる楽しみがあります。楽器好きの方にはぜひ愛器ご持参でご来館下さいませ。
1号館の夏の囲炉裏端で法螺貝の演奏を/法螺貝を吹かせてもらう男の子/尺八の二重奏も。
KIITO会場の方へは先日、神戸市立盲学校の高等部の皆さんがご来館下さいました。それぞれの展示コーナーから、玩具を取り出してそっと触れていただきながら、郷土玩具から近代玩具への移り変わりを「素材」「動力」をテーマにご覧いただき、原田学芸員と一緒にお話をしながら会場を巡りました。また紙コップに凧紐を通して「鳴くニワトリ」の玩具を作り、フリクション・ドラムの楽しさを味わっていただいた後、郷土玩具のフクロウ笛や鳩笛、カッコウ笛、バードコール、鳥の水笛、尾舞鳥などをそれぞれの手に渡して、発音玩具による即席演奏会を行いました。
フクロウ笛が鳴く夜の静けさから夜明け、バードコールの雀がさえずり、紙コップの鶏が一斉にコッコッコッコ、コケコッコーと時の声を作ります。鳩笛、小鳩笛、カッコウ笛などが鳴き合わせをしながら、鳥の玩具による大合唱で盛り上がり、また順番に静かになって夜のフクロウ笛がホウホウと鳴いて終わる演奏会です。郷土玩具の音色をこうして盲学校の皆さんと楽しめたことが非常にうれしく、私たちにとって深く胸にしみる体験でした。
郷土玩具の鳥たち
神戸市立盲学校高等部の皆さんご来館の様子
日時を決めて開催している展示解説会では、ぶんぶんゴマやラトルウォッチ、ローカストシンガーなど、「鳴り物~noisemaker~」として分類される資料を鳴らしながら、その歴史や文化性についてご紹介するところから始めるのですが、それらの音は解説会に参加下さる皆さんの目を輝かせ、たちまち笑顔に変える力があると感じます。博物館資料ですから、展示品は遊ぶ(=使用する)ためにあるのではなく、保存を目的としたものですが、今も作られている郷土玩具や民芸玩具については、音や手触り、温度や重さなどを五感で知っていただき、現代の暮らしにも取り入れていただく、そのきっかけがつくられたら――と思うのです。



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