【新収蔵品の記録】
                  

2008年4月
     セジュナン焼きの人形と動物造形(チュニジア)
▲地中海に面したアフリカ北部の国。東にリビア、
西にアルジェリアと国境を接しています。
  この度、アフリカ州各地の民族造形や衣料などを扱う民芸業者を通じて、チュニジアの土人形を多数入手しました。セジュナン焼きの人形と動物造形のいろいろ―――形といい、色調といい、模様といい、非常にユニークな作品の数々です。
  チュニジアは、アフリカ大陸北部に位置するアラブ諸国の一つです。古代カルタゴ時代から地中海貿易で栄え、のちに東西のローマ帝国、やがてオスマン帝国の支配を受ける歴史の中で、キリスト教世界とイスラム世界、その双方からの影響下にこの国の文化が育まれました。

 

  セジュナン(Sejjnane)は、チュニジア北部の小さな村です。セジュナン焼きの人形や動物造形は、ベルベル人(北アフリカ各地に居住するベルベル諸語を母語にもつ先住民族)の女性たちの手によって生み出されます。手ひねりで成形して乾かし、小さな土窯で焼成する素朴なもので、植物や鉱物などからとれる天然の絵具で彩色されています。



▲セジュナン焼きの人形・ベルベル人

  猫、豚、鳥、フクロウ、魚、亀といった身近に居る小動物は、まろやかなラインが特徴的、白、茶、黒のアースカラーで大胆に模様付けされた作品の数々は、メキシコやペルー、ブラジルなどラテンアメリカの土製民芸とも共通する味わいがあります。今回入手したのは20点。中には、高さ25cmほどの比較的大型のものもありますが、ほとんどが手のひらにのるサイズで、子どもたちの持ち遊びにも適した重量と手触りです。
 いくつかを画像でご覧いただきましょう。

▲魚 ▲仔猫 ▲猫 (高さ27cm)
▲鳥 ▲豚 ▲亀
 動物のおもちゃ展やアフリカの造形展などを開催する折に、ご紹介したいと思っています。


                                         

2006年12月
     ドイツ・エルツゲビルゲ地方の玩具

 先日、ドイツから日本へ一時帰国中の古本清子さん(エアランゲン在住)から1970〜80年代のエルツゲビルゲ地方の木製玩具が入ったダンボール箱が届けられました。
▲届けられたエルツゲビルゲのおもちゃ


 ドイツ連邦共和国の東南部、チェコと国境を接するエルツゲビルゲ地方は、19世紀初頭、木製玩具の産地として知られていました。この地方は、古くは鉱業で栄えた町でした。鉱石の枯渇による廃鉱後、人々はロクロを使って生活用品や玩具を作り、周辺の町々へ行商することを通して暮らしを立てるようになりました。
 今も、エルツゲビルゲ地方には、ザイフェンやグリュンハイニッヘンなどの「おもちゃ村」が点在し、村の歴史や風景をテーマにした物語性豊かな玩具や、クリスマスに登場するしかけのある燭台や人形など、独創性にとみ、技術の高さを示す作品が、大小の工房で作り続けられています。
 
 この地方の玩具作りの現状について、私たちがその詳細を知らされたのは、東西ドイツが再統合を果たした翌年の1991年、古本・ヘルベルトご夫妻の来館を受けた折でした。ヘルベルト氏はエンジニアとして大手企業に勤務されていましたが、エルツゲビルゲのミニチュア玩具の調査収集をサイド・ワークに楽しまれている方でした。1994年新春には、井上館長がドイツを訪問し、ヘルベルト氏の案内でエルツゲビルゲ地方の木製玩具産地の中心ともいえるザイフェンの町を訪ね、同年のクリスマスに博物館の学芸スタッフと友の会のメンバーが団体で訪ねた折には、清子さんが通訳として町の工房を案内して下さいました。当時、アジアからのツアーは珍しく、私たちは、日本初の団体旅行者としてザイフェンの方々に大歓迎を受けました。
 1990年代前半、ザイフェンの町には、10カ所ほど大きな工房と家内工業的な小さな工房は140ほどありました。人口約3000人にして、700人近くが玩具職人という、文字どおりのおもちゃ村。工房の小さなショーケースや家々の窓には、何代にもわたって作り継がれてきた玩具とキャンドルの明かりが暖かく、光のピラミッドやクルミ割り人形の大きなつくりものが町を飾るクリスマスアドベントの風景が深く心に残っています。
 しかし、旧東ドイツに位置していたエルツゲビルゲ地方は、東西統合後、急速に変化を遂げました。ザイフェンの町にも、西側の資本が入り、たくさんのホテルが立ち、旧来のマニュファクチュアによる玩具作りを固守するマイスター(熟練工)たちの暮らしにも、様々な影響が出始めています。ザイフェンのマイスターたちは、以前ほども玩具が売れなくなってしまった・・・と頭を悩ませているといいます。

 
←エルツゲビルゲ地方のユニークな玩具製法〜ライフェンドーレーン〜「馬が出来るまで」
小さな動物を作るとき、ドーナツ型の輪をあらかじめロクロにセットし、足のすき間や背の盛り上がり、頭の傾きなどを、ロクロを回しながら、専用の刀で切り込みます。断面をカットすると、一つのドーナツ型から何十体もの動物が出来上がります。この製法をライフェンドーレーンと呼び、ザイフェンを中心とするエルツゲビルゲの熟練工独自と技術として伝わっています。
















  さて、今回、古本さんから届けられたエルツゲビルゲ地方の木製玩具は、旧東ドイツ時代、1980年代前半頃のものが中心です。木のドーナツ型(ライフェンドーレーン)から動物が切り出される様を紹介する資料、乗り物のミニチュア、メリーゴーランドなど仕掛け玩具、糸仕掛けで動く小さな人形、削りかけの木(シュパーンバウム)と動物、積み木と街づくり、ミニチュアままごと道具、クリスマスのオーナメントなど、総数にして約100点です。

 2006年の現在、エルツゲビルゲの工房では、それぞれに同じ形態のものが作り続けられていますが、20〜30年前のそれらは、今のものとどこか違っています。塗布される絵の具の色彩も、装飾や華美を退けた雰囲気のシンプルな造形も、旧ソ連時代に作られたロシアの木製玩具に通じるものがあり、箱の中から次々に出てくる玩具が並ぶと、過ぎ去った「東ドイツ」の空気が立ち込めるようです。

▲ツリー飾り・天使たち  ▲乗り物玩具のミニチュア(全長5〜6cm)
▲削りかけの木(シュパーンバウム)と鹿 ▲天使のキャンドルスタンド


 これらの玩具は、4号館の常設コーナーに順次、展示し、また機会をとらえてドイツの木製玩具の歴史を紹介する企画展を開催してみたいと思っています。
 古本ヘルベルトご夫妻と出会い、それから玩具を通じた交流が続いていること、ご夫妻の日本玩具博物館への変わらぬご協力ご支援に対して、この場をかりて心より御礼申しあげます。

▲エルツゲビルゲの木製玩具 1970〜80年代



2006年10月
     ウクライナの玩具


 ウクライナは、旧ソビエト連邦の共和国で、南に黒海、東にロシア、西にハンガリーやルーマニア、スロバキア、ポーランドなどの東ヨーロッパの国々と接するスラブの国家です。旧ソ連時代は、音楽芸術やスポーツ方面にも大きな役割を果たしてきました。首都はキエフ。1991年のソ連解体によって独立国家となりましたが、北にチェルノブイリを抱える国でもあり、まだまだ経済的には不安定で、多くの国際的な援助を必要としています。
 今夏、発展途上の国々を支援し、日本との友好を図ることを目的に活動している団体の方を通して、ウクライナの玩具、約50点を入手しました。内容は、素焼き彩色の風俗人形、出土品をモチーフに作られた創作的な土人形、家畜を題材にした土笛、白樺で作られた木製玩具、麦わら細工のクリスマスオーナメントです。
 当館は、既に1970〜80年、旧ソ連時代に作られたコーソフ地方の馬笛や騎馬笛、白樺製玩具など、民族色豊かな伝承玩具を収蔵していますが、それらに比べて、今回の資料には現代的なセンスが加わっています。特に風俗人形のデフォルメされた表情には、アニメーションのキャラクターにも通じる現代的な遊び心があります。






             
     コーソフ地方の山羊笛 (旧ソ連時代1970〜80年代)           素焼き彩色の風俗人形(2000年代)            

 一方、山羊やライオン、馬、豚、猫などを題材に手ひねりで作られた土笛が面白く、その造形からオポーシュ二ャ地方の伝承をひくものと思われます。また、馬車、家鴨車、カタカタ、ぶんぶん独楽、パズル、うなり木、復活祭の玉子など、白樺で作られた木製玩具の素朴さや、細部の文様などには、ウクライナの民族色がしっかりと残されています。
 今回入手した玩具50点は、2000年代のウクライナを伝える資料といえるでしょう。

   
山羊と馬の土笛(2000年代/オポーシュニャ地方か)           白樺製の馬車(2000年代)