日本玩具博物館 館長室・学芸室から

●館長室から
NO51
時事通信社の連載コラム「ふるさとの玩具」          (2010年3月2日 井上 重義)


 当館の庭に植えている春咲きの椿の花が次々に開き始めました。これらの椿は市内在住の愛好家のご好意で苗木を植えたのが開花するようになったもので、孔雀椿や月光椿、玉之浦椿など名品も少なくありません。これからしばらくの間は、椿の花もお楽しみいただけます。

 この1月1日から時事通信社の配信による私の連載コラム「ふるさとの玩具」が始まり2ヶ月が過ぎました。以前も館長室(1月1日付)で申し上げましたが10日毎に10日分の原稿を届けます。200文字ほどの文章と写真ですが、玩具が収蔵庫から見つからなくって右往左往することがしばしあり、それに作者の現状や今も作られているかどうかの現状確認などで予想以上に手間取り、昨日、3月下旬の原稿を送りやっとひと息つきました。

 嬉しいのは私の署名があることから読者から反応があることです。全国のいくつか
の地方新聞に連載されていますが、幸いにも地元の神戸新聞に毎日カラーで掲載されているため、ご来館くださったり、近所の方に「読んでいます。スクラップしています」と嬉しいお言葉をいただいたり、長野県や宮城県からも読んでいますと問い合わせをいただいたりで、私にとっては大きな励みです。

1月23日掲載「うずら車」(宮崎市) 2月6日掲載「肥後手まり」(熊本市) 2月15日掲載「裏奴凧」(大分県臼杵市)
 連載にあたり私は低迷する郷土玩具の現状から、少しでも郷土玩具に関心を持っていただければと考えて引き受けました。沖
2月21日掲載「太鼓山」(長崎市)
縄から始まり、鹿児島、宮崎、大分、熊本、福岡、佐賀、愛媛まで原稿を届けましたが、各地の郷土玩具の厳しい現状が分かりました。後継者もなく廃絶したり、廃絶寸前のものが余りにも多いのです。値段も決して高くはないのですが売れないという言葉もよく聞きました。県による差もあり、かつては物産館で売っていたが今は扱っていない、協会に加入していないので売っていないし実情も分からないという言葉も耳にしました。ふるさとの風土が生み出した郷土玩具が「それぞれの郷土の誇るべき文化財である」との認識がなく、たかが子供のものだと思われているのではないかとも思いました。

 当館は過去にアメリカ、スイス、ベルギー、ブラジルなどで所蔵する日本の郷土玩具展を開催しましたが、郷土玩具がわが国では「子どものもの」という先入観からか評価されることが少ないのに、海外では日本人の美意識や造型感覚を表現したアート作品として高い評価を受けたことに驚いた経験もあります。先日、ロンドンから来館されたご夫妻(奥様は日本人)と話し合う機会がありましたが、外国人が見たいのはこのような博物館ですと嬉しい言葉をいただきました。
 ふるさとの玩具=郷土玩具は単なる子供の遊び道具ではなく、それぞれの地に住む人々の美意識や造型感覚を表現した文化遺産であり、過ぎ去った時代の風俗や暮らしぶりが遺された資料でもあり、大切に守られる必要があると考えるのです。この度の連載では現存する作品だけでなく、地元の人からも忘れられている大正や昭和初期の作品も順次紹介したいと考えています。 


NO50
佐野美術館「ちりめん細工の世界」展によせて   (2010年2月28日 井上 重義)

マンサクの花
 あすから3月です。当館の庭も急に春めきました。椿の花がつぎつぎと花開き、万作の花も満開です。地表にはユキワリイチゲや福寿草の可憐な花も咲いて春の気配があちこちに漂っています。
昭和時代の雛人形(当館6号館で展示中)

 1号館の企画展「ふるさとの雛人形」が昨日から始まりましたが、それを待ちかねたかのように大勢の皆様がご来館くださいました。5号館は昭和30~40年代のお雛様、さらに6号館は「雛まつり~江戸から昭和のお雛さま~」と館内3館で雛人形が見られるとあって、存分に雛人形の世界に浸り、早春の花々に至福の時間を過ごしていただいています。何人もの方から「すばらしい展示ですね」「お雛様だけでなく懐かしいものがいっぱいで楽しかったです」と嬉しいお言葉をかけていただき、6号館前の感想ノートにも「お雛さんが素晴らしい」「感動しました」と書かれていました。いつも思うことですが、博物館はいろいろな意味で来館者を満足させる魅力的な資料をもち展示することが大切であることを再認識した次第です。
佐野美術館展示風景
佐野美術館展示風景(ちりめん細工雛人形)
佐野美術館において熱心に展示を鑑賞する来館者

 去る20日から当館資料による特別展「ちりめん細工の世界」が始まった静岡県三島市の佐野美術館にも大勢の方がお越し下さっています。嬉しいことに初日の講演会も定員オーバー、また当館ちりめん細工講師による体験講座(4回)も早々と満席になり締め切られました。このようなことは最近では珍しいです、と佐野美術館の担当者の方にお聞きしました。
 この展覧会は伊豆稲取の雛の吊るし飾りの影響でちりめん細工に関心が高いこの地域の皆さまに、質の高い本物のちりめん細工を一人でも多くの方に見ていただきたいという私の考えから、同館にお願いをして実現をしたのです。というのも初日の私の講演「ちりめん細工の再興活動について」のなかでもお話したのですが、私たちが長年に亘り日本女性の美意識や造形感覚を表現した手の技の芸術品として再興に取り組んできたちりめん細工が、ここ数年来、中国製のまがい物が「ちりめん細工」の
名で京都をはじめ各地の観光地で売られるようになって、ちりめん細工=安物の土産品というイメージが広がり「悪貨が良貨を駆逐する」状況が生まれているからです。その払拭には、一人でも多くの方に本物のちりめん細工をご覧いただき、その素晴らしさを認識いただくことが大切だと思うのです。
 今回の展示は2007年に開催したたばこと塩の博物館での展示を上回る規模と内容です。
再版した3冊の書籍
新しい収蔵品も沢山出品しており、皆さまの感動を呼び起す展示であると思います。ぜひお誘いあってご覧下さい。
 また雄鷄社から私の監修で出版し、同社倒産後は絶版になり入手不可能になっていた『四季を彩るちりめん細工』『和の布遊びちりめん細工』『ちりめん細工季節の吊るし飾り』の3冊を当館が著作権を買い取りこの展覧会に間に合うように再版しました。いずれも古書市場で高値がついている本ですが、会期中は佐野美術館でお求めいただけます。








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