日本玩具博物館学芸室から

NO.74
美しい大正時代の児童誌 〜『なつかしのおもちゃ博覧会』より〜 
                                           (2009.6.22 学芸員・尾崎織女)

 6号館では、夏の特別展『なつかしのおもちゃ博覧会』がオープンしました。この特別展は、明治・大正・昭和・平成…と移り変わる百余年の間に登場し、私たちが親しんできた玩具を一堂に集め、その題材、素材、機能、目的などに照らして近代玩具史のあらましをご覧いただくと同時に、なつかしい玩具の数々を通して、わが国の生活史をふり返っていただこうという企画です。
▲展示風景「大正時代」のコーナー

 各時代の展示品を前に歓声をあげられる方も多く、土日曜日ともなれば、ご自身の子ども時代の思い出を語り合いながら観覧される家族連れも目立ちます。楽しい声があちこちから聞かれる展示館にいると、玩具は、小さく頼りないものでありながら、私たち一人一人にとって、子供時代の思い出を凝縮して保存する力をもっていることにあらためて気づかされます。

 さて、今回の展示の中から、大正時代の児童雑誌と玩具の世界を少しご紹介してみたいと思います。
 大正時代に入って、ブリキ、セルロイド、アンチモニーなどの新素材玩具の量産体制が確立すると、「メイド・イン・ジャパン」の玩具が広く海外に進出し、玩具は日本の輸出産業の重要な柱となるほどに発展しました。また、舶来物に関心が集まり、キューピーや西洋風俗をまねたセルロイド製人形が人気を博します。

 そのような中、芸術性の高い児童雑誌が相次いで創刊されます。展示室には、鈴木三重吉主宰の『赤い鳥』と並んで、『子供之友』や『コドモノクニ』をご紹介していますが、誌面の絵の愛らしさが特に若い来館者層の目をとらえているようです。
 分けても、私は『コドモノクニ』に心惹かれています。大正11 (1922)年から昭和19(1944)年にかけて東京社から発刊されていた『コドモノクニ』は、子供たちに伝えたい詩や童話、情感豊かな音楽、美しくモダンな絵が満載されたページと、親へのメッセージが込められた教育啓蒙的なページもありました。制作には、巌谷小波、水谷まさる、北原白秋、野口雨情らの作家陣、武井武雄、竹久夢二、岡本帰一らの画家陣、そして作曲家では中山晋平らが参加。この錚々たる芸術家群をまとめる編集顧問が児童心理学者の倉橋惣三というのですから、なんという豪華さでしょうか。大正モダニズムを背景とするデザイン性の高い画面構成が注目を受け、豊かな情操を育む児童雑誌として時代の歓迎を受けました。
▲『コドモノクニ』の誌面 (左=ままごと遊び・武井武雄絵/右=どんたく・北原白秋詩&武井武雄絵)
 展示替え作業中のこと。この美しい『コドモノクニ』の、どの画面を開いて皆さんにお見せするべきかと、悩みに悩んでいるうち
▲玉のりピエロ(セルロイド製)
▲象車(木製)
、全部読まずにはいられなくなって、片っ端からページをめくっていきました。北原白秋の詩のリズム感、巌谷小波の童話のおかしみ、野口雨情の詞・中山晋平の曲の情感、武井武雄の絵の幻想……、どれをとっても素晴らしく、心がじんとしてきます。大戦中の用紙制限を理由に265冊目で休刊を余儀なくされますが、戦争一色に染まっていく時代にあって、児童雑誌の世界がぎりぎりまで子供の心を守ろうとしていたことに気づかされ、胸が熱くなりました。

 一方、大正から昭和初期にかけて作られた動物を題材した木製玩具のデザイン、ハイカラな西洋風のセルロイド人形の彩色や表情などには、児童雑誌を彩った武井武雄の絵のような作品が目立ちます。今回、児童雑誌の傍らに、そのような玩具や人形を展示してみました。アメリカ生まれのキューピーが一世風靡した時代、芸術家たちが子供の心に目を向けていた時代、軟らかで女性的な感性が大切にされた大正時代の情感を、玩具や児童雑誌を通じて、今一度振り返ってみていただきたいと思います。






NO.73
他館で開催の企画展準備に忙しい季節           (2009.6.5 学芸員・尾崎織女)


 梅雨入りしたかと思うような曇り空が続く今日この頃、博物館の庭では明るい黄色を輝かせて、未央柳(ビヨウヤナギ)が咲き始めました。中国の玄宗皇帝は、楊貴妃の美しい眉を未央宮殿の柳に譬えたとか。そんな故事を名にし負う未央柳が満開になると、チカ、チカと源氏蛍が水田の用水路から飛び出してくる季節も目の前です。

 忙しさに取り紛れ、「学芸室から」も久しぶりの更新です。新型インフルエンザ騒ぎで、来館者が減少してしまった5月でした
▲日本絹の里『子どもの晴れ着とちりめん細工展』展示風景
が、播州ではすっかり落ち着きを取り戻しましたので、水田に合歓の木の花が映え、蛙の声が高らかになる季節の風情を探しに、田舎町へと足をお運び下さい。

 さて、去る5月中旬は、井上館長と、群馬県の博物館施設「日本絹の里」(高崎市)へと出張しておりました。日本絹の里では、現在、『子どもの晴れ着とちりめん細工展』を開催中(7月13日まで)です。初宮参りや初節句、祭礼時などに着用された一つ身の祝い着に、子育ての場面で登場するちりめん細工作品を関連付ける展示は初めての試み。館内でも一度も行なったことのない企画でしたので、楽しみ半分、不安も半分の準備作業でしたが、美しく華やかな会場となり、多くの方々にご覧いただきたい内容になったと思っています。

 高崎から戻ってすぐに準備を始めたのは、今夏、宮崎市の博物館施設「みやざき歴史文化館」で開催する『音とあそぶ〜世界の発音玩具と民族楽器』展(7月11日〜9月
▲民族笛コレクションを開梱するトライやるウィーク
  の中学生

12日)です。みやざき歴史文化館からの出品企画依頼は、今回で3回目。先方の担当者の異動が頻繁で、“1回目より2回目、さらに3回目…と、よりよいカタチを積み上げていく”という理想には至りませんが、今回も、「日本玩具博物館の展示が大好きだ」と宮崎の方々に喜んでいただけるように、頑張って用意したいと思っています。

 『音とあそぶ』展は、昨夏、当館内で開催して好評を博した企画でした。その展示構成をベースにして、先週から作品選定と展示のシミュレーション作業を行っています。でんでん太鼓、ぶんぶん独楽、ラトルウォッチ、がらがら、笛、太鼓……、世界各地に伝承される民族色豊かな発音玩具と、楽器として宗教儀礼や祭礼に登場し、また様々な生活の場面で使用される民族楽器の色々を、独自のグルーピングでご紹介し、玩具と楽器の関係について、思い巡らせていただけるような内容を予定しています。

  折から、今週は、姫路市香寺町域で『トライやるウィーク』開催中。中学生たちが、それぞれに、様々な事業所に入って職業体験をする一週間です。日本玩具博物館
▲みやざき歴史文化館『音とあそぶ』展示シミュレーション風景
でも、毎年、2人ほどの生徒さんをお預かりし、担当学芸スタッフの指導のもと、展示台作りやケース内の塵埃清掃、ワークショップの材料セット、ミュージアムショップの商品発注など、博物館業務のあれこれに加わってもらっています。
 今年は、吹奏楽部でクラリネットやピッコロを吹いている女の子だというので、宮崎行きの楽器資料の中から「吹く楽器コレクション」を開梱する作業に加わってもらいました。ペルーのパンパイプス・アンターラ、インドの蛇使いの笛・プーンギ、タイの笙・ケイサーン、ヨーロッパのリコーダー、エジプトの縦笛・ガスパ、オーストラリアの縦笛・デジャリドゥなど・・・、カタチも音色も面白い民族笛の梱包を、一点一点解いて並べていく作業。緊張しながらも、楽しく丁寧に進めることが出来ました。……果たして、若い心の琴線に触れる民族笛があったでしょうか?

 今日、展示ケースの寸法に合わせて、どのように展示するかというシミュレーション作業と、約350点の梱包作業を終えたところです。作品を説明するキャプションや展示グループごとのパネル製作なども早々に完了して、館内での夏の企画・特別展準備に入りたいところです。
 来週から夏の展示替えを行い、夏休み行事もすべて決定して、日本玩具博物館を新しい季節へと動かしてまいります。展示関連企画をいろいろ準備し、本サイトでも順次、紹介してまいりますので、どうぞ楽しみになさっていて下さい。





学芸室2009前期   学芸室2008後期   学芸室2008前期   学芸室2007後期   学芸室2007前期   

学芸室2006後期 
  学芸室2006前期   学芸室2005   






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FAX: 079-232-7174



参考

世界のクリスマス,オーナメント、サンタクロース、降誕人形、光のピラミッド、キャンドルスタンド、ニコラウス、アドベントカレンダー、麦わら細工、煙だし人形