日本玩具博物館学芸室から

NO.92
たくさんの寄贈資料に囲まれて・・・               (2010.8.12 学芸員・尾崎織女)


日本海を進む台風の雨が心配されましたが、播州地方は暗い雲に覆われた程度。3時を過ぎた頃には青空も見え、館の周囲の林からクマゼミやアブラゼミが賑やかな合唱が聞こえています。いつの間にか「盆帰り」の季節。館内には、三世代で来館されるご家族、仏花を携えたご家族の姿も目立ち始めました。夏休みも後半に入りましたが、皆さまにはいかがお過ごしでしょうか。

今春から夏、日本玩具博物館は、5つの大きな玩具コレクションの寄贈を受けました。学芸室では、そのボリュームの大きさに驚き戸惑いつつ、収蔵場所の確保に途方に暮れつつ、少しずつ収蔵登録を進めています。一つは、昭和初期から10年代のミニチュア玩具コレクション(約100組)、もう一つは、昭和初期の上方趣味人たちの間で交換された絵葉書集(約3000枚)、あとの三つは、すべて郷土玩具のコレクション(全体で約1000点)です。
故・T氏のコレクション・・・・ほんの一部です。

今、私が収蔵登録中のコレクションは、故・T氏(岡山県)が精力的に蒐集された全国の郷土玩具、約500点です。T氏が夢中で集めておられた昭和30年代から40年代頃の作品はもちろん、戦前(昭和初期〜10年代)に作られた土人形や既に廃絶して久しい産地の資料なども数多く含まれていて、整理しながら、私自身、よい勉強になっています。

九州、四国、中国、近畿、東海、中部、甲信越、関東、東北…と大まかな地域に分けたら、コンディションを点検し、産地や材質、項目ごとに分類して「日本玩具博物館収蔵品カード」の中に必要事項を書き込んでいきます。一点につき一枚のカード。そこには、製作年代や製作者、方量(寸法など)画像、入手の経緯、入手日、登録日、特記事項などを明記します。玩具一点一点に作るカードは、将来に向けて、病院のカルテのような役割を果たします。

「日本玩具博物館収蔵品カード」・沖縄の郷土玩具
博物館で収蔵登録を終えたモノが価値をもつのは、そのモノが「保存」の対象になるから。つまり、今を生きる私達だけではなく、未来に生きる人たちに向けて存在を約束されたものになるからです。博物館の資料とに私達が特別の敬意を払うことは、未来へ文化を伝承することだと思います。

それにしても、日本の郷土玩具がずらりと集まると、カラフルです。日本各地の都市部や農村で、暮らしの中から誕生し、日本庶民に育まれた造形物が、非常に明るい色彩をもっていることは、他国の趣味家たちの注目をひく点でもあります。郷土玩具一点一点の彩色を見ていくと、青、赤、黄、白、黒の五色が欠かせません。この五色は、中国に端を発する自然哲学「五行思想」につながるものと考えられるでしょうか。
すなわち、万物は、木・火・土・金・水の5つの元素から構成され、この5つの元素の盛衰生滅によって万物が変化し循環するという考え方。
故・T氏のコレクション・・・・山形県相良土人形(明治末期)

木・火・土・金・水が、それぞれに春・夏・変わり目・秋・冬という季節を表わし、東・南・中央・西・北の方角をも象徴します。さらに、この5つは、青・赤・黄・白・黒の五色にも対応していますので、5色を使って彩色されたものは、私達が生きる世界そのものを表現して、それらが身近にあるとき、招福の力を発揮すると近世の人々は考えていたようです。

郷土玩具の色とりどりは、ただ美しさや明るさを求めたからではなく、例えば、5色の力によって、これらを傍に置く人の魔を除き、幸せを呼び込むことが出来ると、私達の祖先は感じていたはずです。

学芸室の8月は、たくさんの寄贈資料に囲まれて過ぎていきそうです。亡きひとの生涯の思いがこもった品々を、私達の博物館を選んでお寄せ下さったご遺族の方々のお心を想い、大切に整理を進めたいと思います。新しく受け入れたコレクション群の整理が完了しましたら、こちらのページでも、また館報でも順次ご報告し、機会をとらえて展示の中でご紹介してまいります。




NO.91
子どもたちのおもちゃ館               (2010.7.22 学芸員・尾崎織女)


長雨の梅雨が明け、スカイブルーの空の下で夏休みが始まりました。陸海空の乗りもの玩具を集めた『世界乗りもの玩具博覧会』は、子どもたちにも人気があり、消防自動車や飛行機の玩具が並ぶ展示ケース前面のガラスは、小さな手形、指形がいっぱいです。「手にもって遊びたい」――ガラスの手形からはそんな声が聞こえてくるような……。
船の展示をみる子どもたち

日本玩具博物館の夏は、子どもたちの季節です。家族に連れられて来館してくる子どもたちは、神妙な表情で世界の船の展示を見たり、プレイコーナーで列車を走らせたり、館内にいくつもの笑い声があふれます。私たちの学芸室は、ヨーロッパの木製玩具を自由に触って遊べる12畳ほどのプレイコーナーに接しています。ドイツの玉ころがし、チェコの動物車、フィンランドの引き車、ラトビアの木馬、スウェーデンの列車……。学芸室の壁一枚を隔てて、チンチロリン♪チンチロリン♪……と、ビー玉がシロフォンを鳴らす愛らしい音が響いてきます。
そして、「これ、ムッチャ楽しいな。こんなおもしろいとは思わんかった
ぁ」と話す声、兄弟でけらけら笑いながら、何かの競争をし、やがて玩具を取り合って喧嘩する声、そこに、時々「もっとここに居るぅ〜」と抗議の声が交じります。「もう半日も遊んでいて、飽きないの
大人気の“レールのある町”(スウェーデン)
?お腹すいたから帰ろうよ。」とお母さんが誘えば、「イヤぁー!!」と大粒の涙をこぼして泣き出す小さな子どももあります。

日本玩具博物館が展示室の一角に、2箇所のプレイコーナーを設けたのは、開館後まもなく、まだ、博物館における「体験」とか「ハンズ・オン」とかいう概念が一般的ではなかった頃のこと。以来、四半世紀以上にわたって、わが館の小さなプレイコーナーは、海外の木製玩具や、日本の木地玩具に自由にさわり、その仕組について考察したり、工夫や熟練を必要とする玩具の面白さを実感したりする場所として、子どもたちに愛され続けてきました。

2箇所のプレイコーナーに設置している玩具を大きく分類すると、
@物体が移動する玩具 

A糸とオモリの仕掛け玩具 
B自分の世界を作る玩具 
C知恵や巧緻性を養う玩具 
D転がして遊ぶ玩具 
“玉ころがし”(ドイツ)に夢中

Eハンマートーイ 
F身体を動かす玩具
の7種類が考えられます。もちろん個人差がありますが、どのような年齢層の子どもにどのような玩具が愛されるのか、子ども個々人が、気に入った玩具に対して、どのような遊び方をするのか、そして、人間の成長に玩具がどのように関わっているのか……。プレイコーナーで日々接する子どもたちの様子は、私たちに数多くのことを教えてくれます。

これまでに何度か、地元の大学の幼児教育科の学生さんたちにお手伝いいただき、来館者のご理解をいただいた上で、子どもたちがプレイコーナーの玩具で遊ぶ様子を観察させてもらったことがありました。「年齢」「ひとつの玩具で遊ぶ時間」「発する言葉」「遊び方の工夫」「ルール作り」…などの項目で、子ども一人一人の様子を記録させていただいたのです。来館する子どもの年齢層は、生後数ヶ月の乳児から小学校高学年の児童まで幅広いのですが、海外の木製玩具のコーナーでよく遊ぶのは、2歳終わり頃から小学校中学年、日本の木地玩具のコーナーで遊ぶのは、5歳前後から小学校高学年という結果になりました。3歳から5歳頃の子どもたちは、“シロフォン付き玉の塔”や“カップのビー玉レース”など、物が移動する玩具で1時間近く遊びます。ビー玉が坂道を転がってシロフォンを鳴らす、その繰り返しを飽きることなく見つめる眼差しは、まるで哲学者のよう。幅広い年齢層に人気があるのが、スウェーデンBRIO社の“レールのある町”。20個以上の車両を磁石でつなぎ合わせ、思いどおりの列車を作ること、その列車を、複雑なレールにのせて、手と口を使って走らせて遊ぶ楽しさは子どもたちにとって格別らしく、変声期を迎えたような男の子たちまでが、満ち足りた表情で列車を連結させていたりするのです。

プレイコーナーに立っていると、子ども連れで来館された親御さんから、また、子育てを終えた世代の来館者からも、様々な感想をいただきます。
「この子が見かけ単純な“玉転がし”でこんなに夢中で遊ぶとは思いませんでした。」
「この子に、こんな長い時間、ひとつの玩具と付き合う集中力があるとは思いませんでした。」
「小さな子には、単純な仕掛けの、手触りの温かい玩具がいいのだとわかりました。
とても穏やかで平和な顔をしているのですもの…。」
「いくら、次を観に行こうと誘っても、動かないんです。普段、買ってやる玩具はすぐに飽きてしまうのに…。」
「子どもがものすごく幸せそうに遊ぶから、親の私たちも幸せな気分になりました。」
「今の子どもは、コマ回しなど好きではないと思っていましたが、ここで、皿コマとか鳴りコマとか、
一生懸命回しているのを観て、子ども自体は、昔と変わらんと思いました。変わったのは環境ですね…。」
…………etc.

そんなふうに、私たちにとっての夏は、来館者の方々と一緒に、子どもと玩具のかかわりについて考える季節です。
今日は、6号館2階の講座室を「おもちゃ作り教室」に模様替えし、乗りもの玩具のワークショップなどの準備を行いました。玩具博物館の教室は屋根裏部屋にあり、長机がずらりと並ぶ寺子屋風。学校とはひと味もふた味も違う不思議空間でのエコロジカルな玩具作りを、多くの方々に楽しんでいただきたいと思っています。夏休みは、博物館学芸員を目指す学生さんたちを何度かお預かりしますので、おもちゃ作り教室は、さらに楽しくなることと思います。



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FAX: 079-232-7174



参考

世界のクリスマス,オーナメント、サンタクロース、降誕人形、光のピラミッド、キャンドルスタンド、ニコラウス、アドベントカレンダー、麦わら細工、煙だし人形