日本玩具博物館学芸室から

NO.86
春の日の三人仕丁               (2010.2.25 学芸員・尾崎織女)

 すっかり春らしくなった日差しの中で、福寿草が黄金色の花びらを広げ、玩具博物館の庭に明るい輝きが広がっています。
福寿草
今週は、休館日を利用して、1号館の企画展示室に『ふるさとの雛人形』展を準備いたしました。6号館と5号館で開催中の特別展『雛まつり』と合わせ、この春は、緋毛氈の上で広がる人形たちの世界をお楽しみいただきたいと思っています。
 
 大量生産や大量流通のシステムが確立されていなかった時代、都市部で飾られる工芸的な衣装
▲『ふるさとの雛人形』展「南国の雛」の
展示コーナー。土雛、紙雛のいろいろ。

雛に影響を受けながらも、地方地方で独自の「ひな」が作られていました。土製、張子製、練り物製、裂製……と、素材も様々ですが、「雛人形」と聞いて私たちが連想する内裏雛、三人官女、五人囃子、随身、仕丁などとはまったく異なる「ひな」もあって、素朴な郷土の「ひな」たちは、日本の雛まつりの世界が、かつてはどんなに豊かであったかを物語ってくれるようです。 
 さて、そのような郷土(ふるさと)の雛人形の色々を展示する中、京都府伏見で作られた深草焼き(伏見土人形)の仕丁たちの伸びやかなスタイルに目が留まりました。仕丁は、内裏雛に仕える水干に烏帽子姿の三人組で、三人上戸(笑い上戸・泣き上戸・怒り上戸)とも呼ばれています。最近の五段飾りなどでは、真ん中の仕丁が沓台(くつだい)を持ち、両側の仕丁は立傘(たてがさ)と台傘(だいがさ)を構えて、雛段に、整然とした緊張感をもたらしています。ところが、伏見の仕丁さんときたら、なんて自由なのでしょう! 向かって左側の仕丁など、地面に頬杖をついてずいぶんくつろいだ様子です。
▲伏見土人形・三人仕丁
京都の伏見は、400年以上の歴史を刻み、全国の土人形製作に
影響を与えた窯である。  


 雛飾りをみる楽しみのひとつは、人形たち表情の豊かさだと思いますので、今回は明治時代の雛飾りの中の「三人仕丁」の色々をご紹介してみたいと思います。
 
 仕丁の姿態を大まかにわけると、沓台・立傘・台傘をもって座っている三人組、箒・がんじき・塵取などを手に雛御殿の清掃をしている三人組、そして、清掃作業を放り出して、煮炊きしながら楽しげに熱燗で一杯飲んでいる三人組があります。皆さまが親しまれている仕丁はどのタイプでしょうか?
 「御殿飾り」を発達させた京阪地方では、掃除をしたり、煮炊きをしたりしている仕丁が多く、一方、「段飾り」を発展させた武家のお膝元・江戸東京周辺では、殿さまにしっかり仕えてかしこまった表情の仕丁が目立ちます。
 
  ▲台傘・沓台・立傘をもった仕丁(段飾り/明治時代後期)        ▲箒・がんじき・水桶をもった仕丁(御殿飾り/大正時代)       ▲煮炊きしながら酒をのむ仕丁(御殿飾り/明治時代後期)
 内裏雛をはじめ、他の雛人形や添え人形が、どちらかというと感情を外には出さず、静かに微笑んでいるときに、泣いたり、怒ったり、大笑いしたりして、感情を思い切り表現した仕丁たちの存在は、雛飾り全体に人間的なムードを与えます。とくに、楽しげに鍋物をつくりながら、酒を酌み交わしている仕丁たちを見ていると、生きる喜びようなものさえ伝わってくるから不思議です。
 戦後、雛飾りの大量生産が行われて、雛人形の表情が画一化してしまう以前、明治・大正時代の雛人形たち、とくに庶民の代表選手のようにして雛段に収まった三人仕丁は、身近に居られる誰かさんの顔を思い出させたりもするのでしょうか、来館者の皆さんの弾けたような笑い声が展示室に響く日もあります。今日のように暖かい日、窓を開け放っていたりすると、それは、おどけた仕丁たちの笑い声かと思われたりして、博物館は楽しい風に包まれています。

NO.85
佐野美術館行き準備完了!               (2010.2.8 学芸員・尾崎織女)

 来る2月20日より、日本玩具博物館のちりめん細工コレクションが勢揃いする展覧会が、静岡県三島市にある佐野美術館で開かれます。ここ数年間にわたり、当館では、「ちりめん細工の世界」と題する展覧会を、各地で開催してきました。2006年夏の京阪百貨店ギャラリー(大阪府守口市)、2007年春のたばこと塩の博物館(東京都渋谷)、同年秋の日本絹の里(群馬県高崎市)、2008年冬の小倉城庭園(福岡県北九州市)と続き、2009年初夏の日本絹の里では再び、企画を変えて展示会を持ちました。各地でご好評をいただき、私たち自身も、展覧会の度、「ちりめん細工」という手芸に対する理解を深められること、ありがたく思っています。

 今回、展示させていただく佐野美術館は、日本刀、青銅器、陶磁器、能面、絵画、書などの美術工芸品を所蔵展示する老舗の私立美術館です。普段は、絵画や書、日本刀の名品がしっとりと収まる企画展示室に、この春は、当館のちりめん細工コレクションをずらりと並べ (600点の展示を予定しています)、三章仕立てで日本の伝統手芸の世界をご紹介してまいります。
 第一章「江戸と明治のちりめん細工」では、江戸時代後期、上流階級や大都市部の富裕な人々の間で作られ使用された「ちりめんのお細工物」について、また、それが明治時代に入り、女学校の教材として受け継がれていく様子を当時の作品群を通してご紹介し、「用と美の袋物」「花と鳥・動物の小袋」「魔よけと招福の巾着」「遊び心の小箱や懐中物」などのグループにわけて、その製作目的や使用目的、意味について考えていきます。
松に日の出・鶴の親子の袋物
(きりばめ細工)/明治中期
八重椿袋/明治末期 芍薬袋/明治末〜大正期 鶏の親子袋/明治中〜末期
 第二章「よみがえったちりめん細工」では、当館が古作品や文献の蒐集を行い、それらの復元作業を通して誕生した平成時代のちりめん細工作品を、春夏秋冬、四季の彩りの中でご紹介します。また、現在の暮らしの中でちりめん細工を楽しむ提案のひとつとして、井上館長の指揮のもと、「日本玩具博物館ちりめん細工の会」のメンバー約150名が協働で作り上げた華やかな「ちりめん細工の傘飾り」もずらり、ご紹介いたします。
↑プロフィールが愛らしい新作品のいろいろ
傘飾りの展示シミュレーション風景→

 そして第三章「子どもの着物と子育てのお細工物」では、初宮参りや節句や祭礼、成長儀礼の折に身につける着物や帽子や涎掛け、また子どもの無事成長を祈って製作された守り袋(巾着)や、人形袋、迷子札など、親たちの愛情が伝わる造形の色々をまとめてご紹介したいと思っています。
 新春より、私たちは準備室の一角にこもって作業に明け暮れておりました。佐野美術館の展示ケースに合わせてシミュレーション展示をしたうえで、展示品を決定し、梱包し、パッキングし、説明パネルやキャプションなどを製作する一方、小さな展示台(大小300個以上!)などを用意していくのですが、それらに加え、細かな作業は数限りなくあるのです。すべての準備が完了し、発送手配も済ませましたので、あとは、展示作業に出向くだけの手はずとなりました。2月17日から井上館長、笹竹学芸員とともに出張し、先方の学芸スタッフの皆さんと一緒に、楽しく温かなムードの展示を完成させたいと思っています。
↑玩具館特製・展示台。菓子箱を黒クロスで包んでいます。
菓子箱は寸法が決まっていないので、小さな資料をのせて
飾るのに結構、有用です。
←展示の準備風景。展示品を決定する作業。
 折りしも、雛祭りの季節。佐野美術館の一室では、ちりめん細工の展示期間、享保雛をはじめ麗しいお雛さまの数々が展示されますし、同じ静岡県伊豆の稲取に足をのばせば、「つるし雛」が賑やかに飾られていることでしょう。
 お近くの方は是非、そしてご遠方の方々には雛巡りの旅を兼ねて、どうぞ三島の佐野美術館をお訪ね下さいませ。展覧会期は、2月20日から4月5日まで。休館日は、毎週木曜です。


学芸室2010前期   学芸室2009後期   学芸室2009前期   学芸室2008後期   学芸室2008前期
 
学芸室2007後期   学芸室2007前期   学芸室2006後期
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FAX: 079-232-7174



参考

世界のクリスマス,オーナメント、サンタクロース、降誕人形、光のピラミッド、キャンドルスタンド、ニコラウス、アドベントカレンダー、麦わら細工、煙だし人形