2011年4月・その2
  板葺き御殿飾り雛(明治30年代)

  

 先日、昭和9年製の檜皮葺き御殿飾り雛をご紹介させていただいたばかりですが、昨日は、現在、大阪市内にお住まいの個人から寄贈のお申し出を受け、井上館長がご自宅まで荷受けに伺いました。
 京都の伏見から奈良に移られた女性(明治30年代生まれ)から、寄贈者(昭和18年生まれ)が譲り受けられ、かつての奈良のご自宅で節句ごとに飾り、保管なさっておられた雛人形です。近くで火災があり、すんでのことで類焼をまぬがれたお雛さま。両の手を使っても一度に持ち切れるものではない豪華な一揃いですから、戦災はもちろん、様々な災害を越えて、110年以上の歳月を守り続けるのは大変なことだったと思います。
 
 御殿も人形も諸道具も木箱に納まったそれぞれを作業場で開梱し、細かいところを修理したり、手を加えたりしながら収蔵登録作業を行いました。木箱の中には、製作者の商標が貼られている場合があります。この雛飾りにおいては、添え飾る“花車”と“雪洞”に「御雛人形細工司/丸屋/大木平蔵」の商標が、御殿の上からつるし飾られる“桜と橘の薬玉”には「有職雲上流造花」の商標がみられます。明治中期から後期、京阪の地で作られ、裕福な町家で飾られた典型的な御殿飾りと思われますので、ここに画像を入れてご紹介させていただきます。

【板葺き御殿】
高さ90.0×奥行75.0×幅143.0(cm)  本殿と脇殿で構成され、階(きざはし)は本殿に付けられた一カ所のみ。屋根は岩絵の具を塗っただけの仕上げでツヤがなく、素朴な味わいがあります。庇はのちの時代のもののように一体型ではなく、各方向を組み合わせて飾ります。当館が所蔵している明治末期の御殿飾り雛各種に比べると、建てやすくシンプルな構造に思われます。
【雛人形】

  

内裏雛・三人官女・随身(左大臣/右大臣)・仕丁(=庭番、三上戸)の10人組。
 京阪の雛飾りは、江戸時代後期から明治時代前期にかけての御殿飾りには、五人囃子が付けられないことが多かったと思われます。江戸出身の五人囃子は武家の式楽である能楽を演奏している姿で作られるため、貴族的な御殿の中には合わないと考えられたためでしょうか。

【添え飾り】
桜橘の二樹の薬玉……収納箱には、「有職雲上流造花」(京都)の商標が貼られています。桜と橘は、御所に植えられた左右の二樹を模したものと考えられますが、これを薬玉に仕立てたのは、古来、端午の節句の贈答品であった薬玉の影響を受けたものと思われます。

【花車・雪洞】
収納箱の中に「御雛人形細工司/丸屋/大木平蔵/京都市四条通堺町北東角」と商標が貼られています。
 来春の雛人形展は、「江戸と明治のお雛さま」がテーマなので、当館所蔵の幕末から明治時代末期までの御殿飾り雛と合わせて、ご紹介させていただこうと思っております。寄贈下さいましたご家族の皆様に、心よりお礼申し上げます。(尾崎)

                                                     
2011年4月・その1
  檜皮葺き御殿飾り雛(昭和9年)


 新春から旧暦桃の節句にかけての季節になると、家庭で飾っていた雛人形を寄贈したいというお申し出に接する機会が増えます。御子息の独立や転居、また受け継がれる方の事情などによって、雛人形を持てなくなったり、また時代を経た古雛は個人宅で飾るより、もっとふさわしい保管先へと考えられたりして、私どもへお電話を下さるのです。
 先日は、奈良にお住まいのご夫人から「御殿飾り雛一揃」を寄贈したいというお申し出を受け、井上館長が奈良のご自宅までお受けに伺いました。持ち帰らせていただいた雛人形や諸道具は、作業場で開梱し、簡易に低い雛段を組んで、一点一点、点検しながら飾り付けを行いました。人形や諸道具の撮影を行い、それぞれに登録番号(この資料はno.11-A015です)をふり、それぞれの木箱の様子を確認しながら梱包収蔵していきます。
 寄贈者のご夫人は昭和9年生まれで、当時、大阪府下に住んでおられました。この御殿飾り雛一揃は、夫人のご誕生を祝って、ご家族が購入されたものと伝わっています。雛飾りには、「大丸」の飾り方説明書が添付されており、一揃の雛飾りは、百貨店「大丸」によってプロデュースされたものとわかります。
 本年の旧暦桃の節句(=4月5日)は過ぎてしまいましたが、雛飾りの様子をこちらのページでご紹介させていただきます。
檜皮葺き御殿飾り雛(昭和9年)を作業室で組み上げたところ
松と鶴の彫刻が施されている本殿の欄間


雛料理の御膳……犬張子やでんでん太鼓の蒔絵
  がほどこされた朱塗の椀
桃の節句のままごと道具…勝手道具セット


雛道具を納める木箱
 檜皮葺き御殿飾り雛は、すでに5組所蔵しており、内訳は、明治末期から大正時代にかけてのものが3組(それぞれに姫路・豊岡・神戸の個人の寄贈)、昭和初期のものが2組(京都・愛知県春日井の個人の寄贈)です。今回のものを含め、昭和初期の3組は、すべて同じような様式で作られており、明治末期のものに比べて屋根の檜皮葺きの密度が粗くなっていたり、組み立ても簡便になっていたり…と細かい部分に多くの違いが認められます。
 今回、寄贈を受けた雛飾りにも、関西特有と思われる白木の勝手道具一揃が付けられ、また、桃の節句に、子どもたちが人形たちと雛料理の共食を行うための小さな御膳が10組揃っており、当時、関西の裕福な町家で行われていた雛まつりの様子を彷彿させます。
 「大丸」の飾り方説明書には非常に興味深いことが書かれていますので、全文をご紹介いたします。

雛人形の飾り方

お雛さまの飾り方にはむつかしい一定の規則はございませんので
雛段に形よく調和をとってお飾り下さい。
図に示しました屏風飾りと御殿飾りは一般的な飾り方の一例でございます。
雛段は、屏風飾りは五段、御殿飾りで三段が適当でございます。
お雛さまの持ち物は

 
●親王 笏、太刀
●姫 檜扇
●官女 向って右から長柄の瓶子、盃台(又は島台)、提柄の瓶子
●五人囃 向って右から扇子、笛、小鼓、大鼓、太鼓
●随身 向って右側に左大臣(老人)、左側に右大臣(若人)が背中に背負い矢、
右手に矢、左手に弓
●仕丁 京都製は向って右から笑い上戸(熊手)、怒り上戸(ちりとり)、泣き上戸(ほうき)
東京製は中央に沓台、両側に台傘と立傘
●御殿花 向って右に桜、左に橘

   
雛人形の御保存には

◇お仕舞になる時は天気のよい日を御選び下さい。
◇羽はたきやバラ毛の筆でほこりをよくお払い下さい。
◇顔・髪には直接綿をあてないでやわらかい紙でお包み下さい。
◇樟脳・ナフタリン等は必ず紙に包んで御使用下さい。
◇御保存には、湿気のない場所を御選び下さい。



  一般的な飾り方の例として、屏風飾りと御殿飾りが紹介されていますが、昭和時代に入っていますので、内裏雛(親王と姫)が置かれる位置がかつての飾り方と逆になっているところ、仕丁における京都製と東京製との違いについて明記されているところにもご注目下さい。

 来春の雛人形展は、テーマを「江戸と明治のお雛さま」としたいと考えていますが、近い将来、当館が所蔵する檜皮葺き御殿飾り雛を一堂に飾ってお目にかけたいと思っておりますので、その折には、昭和9年、大丸プロデュースの雛飾りも登場いたします。ご期待下さいませ。    (尾崎)

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