日本玩具博物館館長室から(過去の記録ページ)
NO22 
特別展『世界の国の人形たち』によせて             (2007年6月23日 井上 重義)


紫陽花 梅雨の季節に入り、当館は緑に包まれました。アジサイの花が咲き、館の前にある合歓の花のつぼみも大きく膨らみ、まもなく優しい花が来館者の目を楽しませてくれることでしょう。
 夏の特別展『世界の国の人形たち』が6号館で始まりました。去る12日(火)の夜から『端午の節句飾り』の撤収作業を行い、続いて世界の人形の展示作業にかかりました。撤収はスムーズでしたが、展示は膨大な資料の中から選び出す作業が大変で、連日夜の11時頃まで作業が続き、今回は1週間がかりでした。展示は尾崎学芸員の企画構成に基づいて、約1000点に上る人形が勢ぞろい。自画自賛するわけではありませんが、素晴らしい展示になりました。来館者からは、きっと感動の言葉が聞かれるでしょう。


ヨーロッパの木の人形 当館は昭和初期に発行された玩具や人形に関わる文献類も多数所蔵しており、その中に山内神斧(1886~1966)の木版画集『壽々』(200部限定出版)があります。昭和10~13年にかけて浅井忠や小林古径など画家仲間の協力を得て、世界の玩具や人形を収集しそれを描いたものです。今回その中の人形の絵を額装し、モデルとなった人形と対比させた展示をしていますが、70年も前に世界の人形が集められてスケッチされたことに感動しました。その他にも関連する子どもたちの写真を展示して、会場には楽しい雰囲気が漂っています。
 しかし、今回の1000点にのぼる資料も、伝統的な民芸品が世界的規模で急速に姿を消している今日、現在入手可能なものは2割もありません。その寸前に収集出来たのですから誠に幸いでした。無理をしてでも集めておいて良かったと、感慨深いものがあります。博物館は「良き資料があってこそ輝く」のですから。


アジアの人形、版画と写真が展示を更に楽しいものに 来館者を感動させる展示は、資料の裏付けがあるからこそ可能なのですが、いくら資料があっても、無味乾燥な展示では人を感動させられません。ここ数年来、尾崎学芸員の功績ですが、当館の展示手法は大きく進展したと思います。展示品にあわせて床のクロスの色を換え、パネルの色を変え、写真や文献資料を駆使して奥行きのある、暖かなハートのある展示になっています。実は人形がおかれている大小さまざまな台はお菓子の入っていた紙箱をクロスで包んだもので、学芸員の手製です。床の色が変わると、箱のクロスも取り替えます。小さなアクリル台は業者に特注して作ってもらったものです。限られた経費のなか、一部の大きなパネルは外注ですが、写真を入れ込んだパネルの制作もキャプションも、学芸員の手になります。外国人の来館者が増えてきたこともあり、英語表示もしています。

 楽しみなのは開催期間中の9月。神戸で第9回世界華商大会が開催され、大会記念旅行の目的地のひとつに当館が選ばれました。9月14日に世界各地から来られた華商の皆様が、世界遺産姫路城と共に当館にも来館されます。それもあって、1930年代に中国で作られた貴重な資料である「花嫁行列」を特別に展示しました。華商の皆様は、当館をどのように受け止めてくださるでしょうか。










NO21
たばこと塩の博物館『ちりめん細工の世界』盛況裡に終わる       (2007年4月25日 井上 重義)


 たばこと塩の博物館の「ちりめん細工の世界」撤収作業に引き続いて、当館6号館の雛人形から端午の節句飾りへの展示換え作業が終わり、やっとひと息つきました。6号館の端午の節句飾りの展示は、これまで6号館の西室だけでしたが今年は全館を使っての展示です。江戸期の甲冑飾りから現在までのさまざまな端午の節句飾りが一堂に並び、初公開の資料も多く、見ごたえ充分です。ぜひご来館下さい。

 さて2月10日~4月8日まで、当館とたばこと塩の博物館との共催で開催された、企画展「ちりめん細工の世界」は大成功といえる大きな成果を収めました。たばこと塩の博物館からの報告では、期間中の総入館者数は23,412人(1日当たり468人)。1日当たり入館者数では夏休みの塩の学習室を除き、ここ10年来の記録を更新したと嬉しい連絡がありました。人気がある展覧会だと、期間の後半になって入館者が伸びると聞いていましたが、その通りの展開になり、後半、1日で800人を超える日もありました。
 私もある程度の集客は考えていましたが、予想を超える反響に驚きました。何よりも嬉しかったのは、展示に感動してくださった方が大勢あり、リピーターが多かったことです。先日も当館にはがきが届きました。『あまりの素晴らしさに感動して、期間中に知人を誘って何度も出かけました。胸の中にたまっていた、なんともいえない懐かしい思いが一度に満たされ、ため息が出ました』と綴られていました。「来館者を感動させる展示」は、博物館関係者にとっては最上の喜びです。それが実現できたのです。会場がちりめん細工の展示に良く合い、雰囲気が良かったこと、伊豆の稲取など雛の吊るし飾りが人気を呼び、ちりめん細工が認識される中で、江戸から現代までのちりめん細工の歴史を追った展示構成の素晴らしさと質の高さが、感動を呼び起こしたのでしょうか。


 今回、たばこと塩の博物館のご配慮により「主催=たばこと塩の博物館、日本玩具博物館」と、2館が協力しての企画展であることをポスターやチラシなどで表示いただきました。実際の展示作業でも両館の学芸員が和気あいあいに共同で作業にあたり、知恵を出しあってすばらしい展示になりました。首都での展示の大成功は、当館の今後にも大きな影響がでそうです。早速に展示品の「迷子札」が芸術新潮の5月号に4ページに亘りカラーで「明治のファンシーストラップちりめん迷子札」として紹介されます。9月には池袋西武で開催される「第4回私の針仕事展」にも当館所蔵の古作品や文献資料と傘飾りを出品します。8月は鹿児島の長島美術館でよみがえったちりめん細工の数々を展示し、10月には群馬県立絹の里でのちりめん細工の特別展開催が決定しました。


 当館の20数年に亘る地道な「ちりめん細工再興」活動が実を結び、和の手芸の世界に大きな波を起こしています。



好古園 『ちりめん細工・四季の傘飾り展』



NO20
『傘飾りと雛飾り』を発刊しました       (2007年4月1日 井上 重義)


新刊『四季の傘飾りと雛飾り』(日本ヴォーグ社)
 昨年来取り組んでいた『四季の傘飾りと雛飾り』が日本ヴォーグ社より発刊されました。私の監修によるちりめん細工関連の本はこれで10冊目です。内容的にはちりめん細工の傘飾りを季節毎に初級者と上級者向けに2作品を紹介し、さらに雛の季節に因んだ傘飾りと雛の飾りをまとめました。AB版、96ページ(内カラー48ページ)、定価1500円です。これまで出版した本の中では写真もシンプルで美しく、格調高く仕上がっています。何人もの方から「見るだけでも楽しい本ですね」と嬉しいお言葉をいただきました。
 この傘飾りの本は、たばこと塩の博物館で現在開催中の企画展『ちりめん細工の世界』に関連して発刊したもので、展示品の傘飾りの作り方の解説書にもなっています。

冬の傘飾り【雪遊び】 作品制作/赤井春子 
 ちりめん細工は江戸時代や明治時代の裕福な階層の女性たちが作り伝えてきた手芸品です。手のひらに乗るほどの小さなちりめん細工の中には、かつては琴爪やお守り、お香などが入れられました。しかし当時とは環境も変わり、現在は各作品の完成度を高めるだけでなく、作品の見せ方が大切な時代になりました。そのことは、ちりめん細工を幾つも吊り下げた雛の「つるし飾り」に大きな関心が寄せられていることでもいえます。それに気付き、これまでにちりめん細工の柱飾りや輪島塗の棒にちりめん細工を吊るすなど、新しい飾り方を提案してきました。


春の傘飾り【桜の宴】 作品制作/南尚代
 今回の傘飾りは、傘が「末広がり」で目出度く、また傘の略字の「仐」が八十に見えることから長寿の祝いにも使われてきたことに注目して、当館のちりめん細工の講師の皆さまと共に、和傘にちりめん細工を吊るす飾りを考えました。
 傘飾りは骨に作品を吊るすため、数多くの作品を作る必要があります。一点ずつ縫うとなれば時間も労力も大変です。そのためこの本では、スチロール玉など新しい素材を利用して簡単に作れる初心者向けの作品も発表しました。また雛のつるし飾りは収納に問題がありましたが、傘は折りたためるため、収納場所を取りません。さらに傘飾りはちりめん細工の取り外しが容易で、吊るす作品の入れ替えもできます。


秋の傘飾り【実りの秋】 作品制作/清元瑩子


 傘飾り用の直径30cmの小さな和傘は岐阜の老舗の協力を得て、従来のものに手を加えて格調高く仕上げていただきました。和傘の振興にも役立てば好いのですが。
 この本により、ちりめん細工の傘飾りが大勢の方に親しまれ、四季折々の生活に潤いをもたらせてくれることを願っています。
 書店にも並んでいると思います。ぜひ手にとってご覧ください。







NO19
好評です。「ちりめん細工の世界」展          (2007年2月22日 井上 重義)


 2月10日から東京・渋谷のたばこと塩の博物館で始まった、企画展「ちりめん細工の世界」は大好評です。初日の10日に行われた私の講演『ちりめん細工の再興活動』も、1時間余り前から聴講希望者が会場入り口に並ばれ、満席状態になって、お聞きい
講演会風景
ただけない方が大勢出ました。関西弁で早口の私の講演でしたが、「良かった」と手紙を下さった方もあり、当館がちりめん細工の再興に取り組んだ経緯を大勢の皆様にご理解いただくことができて喜んでいます。当日配布した講演のレジメをご覧下さい。
 企画展会場はたばこと塩の博物館の4階。エレベータで上ります。私は10日、11日、16日と会場に出かけましたが、エレベーターが到着するたびに大勢の方がお見えくださいました。広い会場は色とりどりの作品や美しい着物で華やかな雰囲気に包まれ、「素晴らしい展示ですね」と大勢の方が感嘆の声をあげて下さるのが心に残りました。初日から3日間の来場者は1500人、今も連日300名を越える来館者で賑わっているようです。私も大勢の皆さまに感動を与える展示ができたことが嬉しく、この会場での開催は正解だったと喜んでいます。




展示風景 展示風景

   

 前回の館長室でも申しあげましたが、展示の設営には当館からは3名が上京。8・9日の2日間、たばこと塩の博物館学芸員の皆様と共に展示作業にあたりました。広い会場を取り囲むケースには、江戸時代から明治期にかけての作品に続いて現代の作品が展示され、壁面には着物を飾りました。中央には大小の傘飾りが美しくライトアップされて来場者を感動させる華やかな会場構成です。ベテランの皆様との楽しい共同作業も大変勉強になりました。
 一昨日も青森の方から「素晴らしい展示だった」とわざわざ電話をいただきました。東京での展示は、関東圏だけでなく東日本の皆様に、ちりめん細工の素晴らしさを認識いただける大きな機会になりそうです。


NO18
たばこと塩の博物館企画展
「ちりめん細工の世界」展によせて
             (2007年2月6日 井上 重義)


 2月10日から東京・渋谷のたばこと塩の博物館で、当館所蔵の資料を中心とした企画展「ちりめん細工の世界」が開催されます吉祥文様五角袋。その準備のため、私と学芸担当者(尾崎、井上)が7日に上京いたします。10日のオープンめざして、たばこと塩の博物館学芸員の皆様と共同で展示作業にあたりますが、学ばせていただくことも多いものと楽しみにしています。
 実はたばこと塩の博物館での「ちりめん細工展」は、私の長年来の夢でした。1994年にNHK出版から私の監修で『伝承の布遊び ちりめん細工』を出版しましたが、所用でNHK出版に行くとき、同じ渋谷にあるたばこと塩の博物館には必ず立ち寄っていました。そして将来、このような立派な博物館で「ちりめん細工展」を開催し、大勢の皆様に日本女性が生み出した伝統手芸の美や心を知ってもらいたいと思いました。その10年来の夢が叶い、嬉しいです。
四季の花袋
 私たちの祖先は暮らしの中からさまざまなものを生み出しました。その人々が作り出した文化遺産を守り伝えるのが博物館の大切な仕事だと思います。博物館は様々なものをコレクションしていますが、大切さに気付かれないままに消えてしまったものも少なくありません。江戸時代から着物などに使われてきた縮緬の端切れで作られた、花や動物、玩具、人形の小袋や小箱の裁縫お細工物(ちりめん細工)もそのひとつでした。私は全国の姉様人形や手まりなど女性にちなんだ郷土玩具を収集する中でち押絵小箱りめん細工の存在を知り、約30年前からちりめん細工を収集し保存してきました。収集は古裂専門店やオークションでの購入、私の監修したちりめん細工の本に掲載された作品の制作者からの寄贈などのほか、大勢の皆様からも古作品の寄贈を受け、約3000点に上るちりめん細工コレクションを形成しました。国内には数千の博物館がありますが、ちりめん細工をこれほど所蔵する博物館は他にないでしょう。このようなコレクションを築くことができたのは「消えゆく子供や女性の文化財を後世に伝え、光を当てること」を当館の使命と考え、人が集めるから集めるのでなく、ちりめん細工に文化的価値を見出し、長年にわたり収集活動を継続、コレクションの形成を図り、体系化してきたからです。
 数が集まればいろいろなことが見え、価値も生まれます。ちりめん細工には花鳥風月が表現されていたり、魔よけや招福の意味を持つものが多く、実用性だけではなく遊び心もふんだんに織り込まれているなど、小さな作品のひとつひとつが、私たちにさまざまなことを語りかけ教えてくれます。日本の女性たちが受け継いできた、小さな布裂も大切にする心、手の技、美的感覚のすばらしさを再発見していただく場になればと思います。
 たばこと塩の博物館は渋谷駅から東へ徒歩で約10分と交通も便利です。ぜひ、企画展「ちりめん細工の世界」にお出かけください。






NO17  
明けましておめでとうございます
本年もよろしくお願い申しあげます
          (2007年元旦 井上 重義) 

 つつがなく開館33年目の新春を迎えることができました。博物館を取り巻く状況は厳しいものがあります。入館者を増やすことが博物館にとっての最大の課題ではないと思うのですが、博物館の世界にも成果主義の考えが入ってきています。幸いにも当館は、厳しい状況にもかかわらず運営は順調です。昨年度も800点近い資料を収集しましたが、今年も資料の充実を図り、来館者を感動させる博物館でありたいと考えています。
 今年も季節ごとに多彩な企画展(1号館)と特別展(6号館)を計画しており、企画展は春が「ままごと道具の今昔」、夏が「世界の船のおもちゃ」、秋が「おもちゃに見る日本の祭り」を開催します。特別展は春の雛人形に次いで、夏は「世界の国の人形たち」です。
 展示にあわせた楽しい催しも計画しており、新春も1月3日には独楽回し、4日には羽根突き大会、7日には恒例の全国凧あげ祭りを開催しますが、今年で第33回。すっかり播州路の新春の名物行事として定着しました。例年のように山口県見島の鬼ようず、徳島県鳴門のわんわん凧、新潟県見附の六角凧の他、今年は凧合戦で有名な浜松からも初参加、富山県からも久しぶりに参加されます。いずれにせよ日本各地の大小さまざまな伝統凧が新春の空を彩り、例年と同じく大空に揚った凧の解説を私が行います。嬉しいのは凧揚げ祭りを楽しみにしていると、知らない方からも声をかけられることが多くなりました。
 またあと1ヶ月余で東京渋谷のたばこと塩の博物館で当館の資料出品による『和の布遊び・ちりめん細工の世界』が始まります。旧年暮れからその準備にかかっていますが、あわせて日本ヴォーグ社から『ちりめん細工・傘飾りと雛飾り』を出版の予定で作業が進んでいます。今年も多忙な年になりそうです。皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。    






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