●日本玩具博物館・夏の特別展●



■会期  2007年6月23日(土) → 10月9日(火) 

 人形の歴史は、人間の歴史とともにあります。古代に登場する人形は、災厄よけ、安産や豊作の祈願などに用いられ、お守りとしての役割を果たしていました。愛玩用の人形が登場するのは、ギリシャ・ローマ時代。8〜9世紀に入ると、ヨーロッパでは子ども用の抱き人形が作られ始めます。ファッションの先触れとして19世紀のヨーロッパを風靡した観賞用の衣装人形、個人の芸術性を志向した創作人形、風俗をおり込んだ世界各地の民族人形など、現在までに、様々な役割をもった人形が登場し、私たちの暮らしを彩ってきました。
 一方、古代の人形と共通する心をもった素朴な自然素材の人形は、今なお、アフリカや中南米、アジアなどの各地で生き続け、また、古くから子どもたちが伝承してきた草人形や木の実の人形なども、人形の世界に豊かな奥行を与えています。

 本展では、当館の2万点をこえる「世界の人形コレクション」の中から、世界約100ヶ国1000点の人形資料を選び、二つのコーナーにわけて展示いたします。神々の領域にある  人形、愛玩用の抱き人形、芝居や祭のための人形など、テーマによって「人形の世界」を紹介するコーナーと、人形を通して世界の国々の風俗を展観する「人形で綴る世界紀行」  のコーナーをもうけました。人形たちの表情を慈しみながら、歴史を経て、今日に伝えられた人形文化にふれる機会としていただければ幸いです。
【人形の世界】
このコーナーでは、「神々と人形」「芝居の人形」「世界の伝承人形」「世界の抱き人形」「人形と玩具」の五つのテーマにわけて人形を展示し、人形の役割や意味を考えます。

●神々と人形・・・・・・・・・ここに展示する人形は、安産や子供の無事な成長を祈るための形代であったり、人間にふりかかる厄災の身代わりとなるお守りであったり、神や精霊の依代、あるいは偶像であったり……と、単純に玩具として作られた人形ではありません。これらを通して、古代の人形の姿を想像することが出来ます。

●芝居の人形・・・・・・・・・今では、娯楽演芸として、また舞台芸術として発達したマリオネット、ギニョール、棒操りなどの人形芝居は、もとをたどれば、人形を通して神々の世界を表現し、人間の暮らしの安泰を願う宗教的な芸能として生まれたものといわれています。南アジアの影絵芝居のように、人形には霊魂が宿るとして、演じ方や収蔵の取り扱いにも細やかな注意が払われるものも見受けられます。
 
●世界の伝承人形・・・・・・・・・麦わら、きびがら、ヤシの葉、木の実、土、動物の骨などで手作りされた素朴な人形は、すぐに自然に還ってしまう素材で作られたものが多いだけに、後世への保存が難しい資料です。しかしながら、身近な自然を利用して簡単に手作りされる草の人形などは、世界各地の民族が遠い昔から作り伝えてきたもの、つまり、人形たちの祖先とも考えられます。

●世界の抱き人形・・・・・・・・・私たちが「人形」と言うとき、一番に思い浮かべるのは、子供の頃にかわいがっていた抱き人形のことかもしれません。布や張子など、軽く柔らかい素材で作られた抱き人形は、世界中の子どもたちに愛されてきました。遊び手の分身であり、友人であり、時に子どもである「人形」を通して、私たちは小さい者に対する愛情を育み、自分の世界を広げていきます。

●人形と玩具・・・・・・・・・積み木、がらがら、ハンペルマンやジャンピングジャック、棒人形など、人形をモチーフにした玩具の色々を紹介します。「目鼻」をもった玩具は、子供の遊びに物語を生み出していくきっかけを与えてくれます。


【人形で綴る世界紀行】
人形の顔は、驚くほどに作り手である民族の顔を映し出し、また衣装や姿態は、各地の風俗をわかりやすく表現しています。このコーナーでは、地域ごとに民俗人形の数々を展示し、それぞれの地域の人形文化を紹介しながら、世界の人々の暮らしを綴っていきます。

●アジア・オセアニアの人形
  音楽を奏でる人、子守りをする人、働く人、動物とともに暮らす人……、それぞれの人形はその地の民族衣装をまとい、自然に調和して生きる各地の暮らしをうつしとっています。また、東南アジア世界では、民族芸能を題材にした人形も目立ちます。
  中国、タイ、ラオスなどでは、近年になって「少数民族」と呼ばれる人たちの風俗をそのまま映した人形が数多く作られ、観光土産としても売られるようになりました。刺繍
された衣裳や実物と同じ素材で作られたアクセサリーも、美しく繊細で、量産される「商品」にはない温かさが感じられます。

 
●中近東・アフリカの人形
 グザ(木の皮を繊維状にしたもの)、サイザル(麻)、バナナの皮、皮革…など、身近にある自然素材を利用して作られる素朴な人形が目立ちます。子守りをしながら働く母親、太鼓や笛を鳴らして踊る人々、ゲームに興ずる人、医者、カメラマン、タイピスト……、今にも動き出しそうな人形を通して、子育ての様子や祭礼の風景、また、現在の人々の暮らしも浮かび上がってきます。アフリカ各地では、貧しい地域の授産プロジェクトのひとつとして、その地の伝統工芸を生かしながら、「民芸品」として民族人形を製作する村々も増えています。
 中近東は、偶像を禁止する宗教上の理由も手伝って、人形をもたない国がほとんどですが、近年になって観光土産的な人形が登場してきました。



●ヨーロッパの人形
 ヨーロッパにも、古い伝統をもつロシアやドイツの木製人形、スペインやポルトガルの土人形、麦わらやきびがら(トウモロコシの皮)で作られるチェコやポーランドの風俗人形など、地域の人々のために作られる伝承的な人形があります。
 それに加え、20世紀になると、各国の各民族がそれぞれの地の民族衣装を身にまとった 人形が数多く作られ、観光客のマスコットとして、また、文化の使者として世界中に広がっていきました。
ここでは、ヨーロッパの伝承人形と近年になって作られ始めた民族人形の色々をとりまぜてご紹介します。


●北アメリカの人形
 アザラシの皮やウサギの毛皮、魚の皮などを利用して作られたアラスカ地域の人形は、防寒 を旨とする民族衣装を身にまとっています。本体となる部分には、アザラシやカリブーの骨の他、流木が使われたものも目立ち、雪に閉ざされた地域の暮らしぶりを伝えてくれます。
 一方、アメリカ合衆国の各地には、きびがら(トウモロコシの皮)や皮革、鳥の羽根などを使った民族人形が見られます。
北アメリカの人形を集めてみると、この大陸の民族的な多彩さがよく浮かび上がります。

●中南アメリカの人形
  先住民の文化とヨーロッパやアフリカ各地の移民が持ち込んだ文化がとけあったユニークな社会風俗は、人形の表情にもよく表現されています。ブラジルやメキシコ、グアテマラ各地の先住民が作る土人形、ヤシの葉やきびがら、葦などを素材にした伝承人形は、自然に調和し、音楽を愛し、子どもを慈しんで暮らす人々の生活心情を伝えてくれます。
 メキシコは、日本や中国、タイ、ミャンマーなどアジアの国々と並んで、伝承人形の中に張子製が作られる国として知られています。アジアのものと異なる点は、手足が動くように作られていることで、そこにはヨーロッパ文化の影響も見出されます。